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『鮫どんとキジムナー』


 前田祥子 〔2010神奈川支部ライブラリー委員長〕



琉球王国の伝統文化や歴史に育まれた独特の文化の沖縄は、
大小160もの島々が点在しサンゴ礁に囲まれた明るい南国です。
自然豊かな美しい海と空のイメージですが、
沖縄本島の北部はヤンバル(山原)とよばれる深い森におおわれた山地です。

自然に対して尊敬と畏怖の心をいだいてきた人々は、
多くの民話や伝説を沖縄の言葉ウチナーグチで語り継いでいます。
海には、竜やマジムン(魔物)が住んでいると言われます。
人の魂をマブイといい、事故にあったりするとそのショックでマブイが体から抜け出ていきます。
人のマブイをぬきとってしまうマジムンもよく登場します。

ガジュマルは多幸の木とも言われます。
亜熱帯の沖縄に生息する大木で枝を広げ力強く根をはり、見るからにおどろおどろしい印象ですが、
暑い夏には人々が集う優しい木陰をつくり、かの地では親しみのある木です。

沖縄の代表的な伝説上の妖怪キジムナーは、
小さな子どもくらいの大きさで赤い顔に赤い髪の毛でいたずら好き。
跳びはねるように歩き、大きな古いガジュマロの木をすみかにしています。
樹木の精霊とされ、沖縄の人にとっては愛すべき妖怪です。
魚介類を主食とし、キジムナーとともに漁をするとたちどころに船が魚であふれるほど魚が捕れますが、
とくに魚の目玉(左目)が大好きで、目玉だけがない魚の死骸があったらそれはキジムナーの食べ残しと伝えられています。
人なつこくて、親しくなった人には多くの幸福をもたらし家が栄え、
逆に恨みを買うと死んでしまったり家が滅びたり。
まるでざしきぼっこですね。
キジムナーはたこや鶏を嫌うので、縁を切るにはこれらを使うか、
キジムナーの宿っている木を焼いたり釘を打ち込んだりすると良いといいます。

キジムナーは沖縄の人ならみな知っている民話の登場人物です。
民話の時代と現代が断絶せず、目に見える風景の中に残されているようで、
おもむき深いですね。


● 参考図書
□「沖縄まるごと大百科」シリーズ ポプラ社
□「妖怪事典」 村上健司編著 毎日新聞社




*この記事は、
『神奈川支部ライブラリー通信No.6』(ラボ神奈川支部ライブラリー研究会 2010年9月27日発行)
に掲載したリポートから修正して転載しました。
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