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三澤制作所のラボ・カレンダーをめくる Rise Up to the Sky. ChuChu Belongs There. 04月03日 (火)
卯月である。
弥生が別れの月なら、
今月は新しい出会いと
旅のはじまりの月だ。
,yah
そんな季節にふさわしい
さわやかな絵が登場。
ラボ・ライブラリーSK8
ChuChu 『こつばめチュチュ』に
inspireされた作品だ。
描いてくれたのは
野呂千尋さん(小6/小笠原カヨ子P)。

絵大好き少女の力作であることは
だれが見てもわかる。
そして、吉原英雄先生の
オリジナルの絵本を知っている人は
別の意味でびっくりするし、
この絵の後で絵本を観た人は
もっとたまげるだろう。

そのことは後述するが、
小学1年生のツバメのチュチュと
なかまたちが澄んだ空ほ
競いながら飛翔するさまを
ワイドな画面で描き切った
豪快・爽快・痛快な画面には
みんなstanding ovationだ。

チュチュのいる街は物語上の
架空だtownだが、
千尋さんのなかでは超リアルに実在している。
そしてそれをvisualに表現する力を
彼女は持っている。

もしかすると千尋さんは
もっともっとリアルに
家や樹木や光を
新海監督のアニメのように
クリアな感じで
描きたかったのかもしれない。
でも、この水彩のボケ味は
絵はがきや風景スナップなどよりも
とても生きいきとしていると思う。

家が立ち並び、ビルもあり。
樹々も点在し、鉄塔もあり
電線もある。
遠くに美しい山もある。
チュチュたちの眼下の街には
子どもたちの笑い声があり。
荷物を運ぶお兄さんが汗があり、
窓辺でピアノを弾く
お姉さんのtrèmoloがあり、
恋人たちのささやきがあり、
たいせつな人を失った涙がある。
そんな想像を掻き立ててくれる。

絵全体にこの街を祝福する
鐘の音が聞こえてくる気さえする。

チュチュと同じ高さで、
街全体を見おろす千尋さんの視線は
なんというやさしさだろう。
千尋さんは、「がんばれチュチュ!」と
応援しているのはもちろんだが、
「がんばれみんな!」と
ちょっした失敗や、つまずきで
すぐに膝をかかえてしまうぼくたちを
激励しているのだといま気づき、
ハッとしている。

もうすこし詳しく見よう。
描き込みの細かさはいうまでもなく
ものすごい集中力と想像力だ。
ラボ・ライブラリーの音声と音楽から
これだの世界を広げるのは尋常ではない。
さらに、focusはツバメたちにあっているので
街や遠景は巧まずしてボケている。
被写界深度、Depth of Focusを
使っているのもすごい。
このスケール感と奥行き感、
また、ツバメたちが電線の上にも
奥のほうにもいるのが楽しい。

ツバメはオスメス同色で、尾は長い方がオス。
燕尾服の由来である。
都市に来るツパメは
ほとんどが建物の軒下などの
人工物に営巣するので
最近は迷惑がられたりするが、
空中の虫を餌にするので、
農薬のない昔は稲の害虫を
食べてくれる鳥として
たいせつにされた。
また、軒下に巣をつくったツバメは、
雷や火事を防ぎ、
子どもを生み育てる吉鳥灯ともされ、
にんげんとはなじみの深い鳥だ。

柏原(黒姫)出身の俳人
小林一茶にも
今来たと 顔を並べる つばめかな
なんていう句がある。

で、ここでdelicateな話をする。
そして最初にラボ・カレンダーの選考について
とやかくいうつもりはないことを
お断りしておく。
この絵は、ふつうに考えれば
「1年でも1万メートル」
というツバメの運動会の競争のシーンだ。
だとすると
narrationにもあるように
「秋のはじめの青い空」である。
この語りはシンプルな表現だが、
チュチュたちが舞い上がる
空の高さと広さ。
そして巣立ったばかりの
幼いツバメの可能性を
ことばのナイフで鮮やかに
切り取ってみせる
とても重要な一言。

物語を聴く子どものイメージは
大きくて広げることば。
さすがはらくだ・こぶにだ。

これだけ印象深いことばは
千尋さんの心に残っているはずだし、
これだけチュチュの世界を
リアルに描き出せるほど
物語と向き合った彼女なら
当然のことだ。
だとすれば、この絵は9月の絵に
おくべきだったのではないか。

また、仮にこの絵が「登校の場面」だとしても
ツバメが巣立つのは6月から
7月くらいであるから
4月では早過ぎる。

ただ、こういう可能性もある。
「チュチュは少学1年生」というのは
物語のはじめに明示されるから、
それを意識した「新学期」というイメージで
千尋さんは描いたのかもしれない。
いつもいうように、
物語、fictionに
自然科学の整合性を持ち込むと
あまりおもしろくない。
「石から猿は生まれない」
といったら『西遊記』は成立しない。
「石から、猿? わっはっは」
という感性がだいじだとも思う。

ただ、作者のらくだ・こぶにが
「秋のはじめの青い空」にこだわったことは
まちがいないし、
それが千尋さんに届いていないはずもない。

この物語を知らない人が
この絵を見たら春の空を想像するのかも知れない。
(もっとも4月立つらもっと靄がかる)
ともあれ、千尋さんの思いが気になる。
「秋のはじめの青い空」なのか。
ヒレとは関係無く
新学期の空を描いたのか。
作品の完成度、訴える力が強いだけに
その辺りを本人に確認して
月を決めても良かったのではないか。

なにやら選考への批判メいたことを
めずらしく書いてしまったが、
ぼくにはどうしても
「秋のはじめの青い空」なのだ。

そう呟きながら、またながめているが、
ツバメたちの配置も素晴らしい。
先頭を行くチュチュの前方を少し空け、
2番目めのつばめを少し高く起き、
さらに最後尾のツバメの尻尾を
断ち切りで描いたことで。
奥行とスピード感、
さらにツバメのフォーカスがクリアになった。

やはりすばらしい。
中学生になっても
絵を描きつづけてね。
nyynd
◎ここからは後半
かつて書いたことに加筆した。

SK8は1974年のリリースだ。
この巻はラボ・ライブラリーが
「こどものともシリーズ」
からはなれ、
また有名な昔話や童話の再話でもなく、
ラボがオリジナル・ストーリィで
制作した最初の作品である。

子どもたちにとっては
そのラボ・ライブラリーを
だれが作ろうが、
だれが絵を描こうが、
だれが吹き込もうが、
物語は物語。
自分にとっておもしろいかどうかしかない。
ラボ・ライブラリーは
ご存じのように
一流アーティストが参加して
つくられるが、
子どもたちにとっては
制作関係者が有名かどうか、
またテーマがなんなのかといのも
どうでもいいことだ。
というか、そうしたことを教えたり
押しつけたりするのは無意味だ。

といいつつ、クレジットを並べると
英 語 ● Sarah Ann Nishié
日本語 ● らくだ・こぶに/さが・のぶる
音 楽 ● 間宮芳生
吹 込 ● Alan Booth / Gerri Sorrells /
Roger Matthews /江守 徹/
田島令子/野村万作/岸田今日子
絵 ● 吉原英雄/藤枝りゅうじ/山下
菊二/元永定正
とある。

まあとんでもない顔ぶれである。
極端ないいかたをすると、
離乳食から普通のご飯を食べはじめた
幼な子の食器に
名工の飯茶碗や
すぐれた塗師による
蒔絵の日月椀を
さらっと用意しているようなものだ。
(これはだれだれ先生の傑作だから
とはいわない。食べ物をよそうのだから
だいじにしなさいというがよし)。

SK8は初の完全ラボ・オリジナル
であるがゆえに、
この作品のストーリーも音楽も絵も
その後に連なるラボ・ライブラリー
の特長のたいせつな部分が凝縮している。
また、その後、しばらく
ラボ・ライブラリーづくりの中心にいた
らくだ・こぶにの意図が
鮮明に感じとれる。

すべからく物語おけるテキストは
フィクション、すなわち
そこに無いものを描くことができる。
ということは時間的からも空間からも
解き放たれている。

ただ、ラボ・ライブラリーは
物語を立体的に描こうという試みであり、
絵は空間を語り、
音楽は時間を支配する。
3Dなのだ。

『こつばめチュチュ』のストーリィは
シンプルな話かもしれない。
だた、一見シンプルなのだけれど、
なかに入り込んでいるcontextは
けっこう奥にあるので
ほじりくりだして
味わうとおよりおいしくなる。

それらの味はライブラリーを
一度さらっと聴いたり、
わあっと「一回動いた」
程度では見えてこない。
まあライブラリーに限らず
どんな物語でも小説でも
そうしたcontext、
すなわち山や谷や川や森は
下からゆっくり登って
高みに行かないと全部は見えない。

この物語が
大好きな小学生なら
ことばにはできなくても
膨らませているだろう。
ことばにできないと書いたが、
イメージは言語と体験のインプットから
形成されるが、うかんだイメージを
言語化して展開するのは
別の抽象力が必要だ。
それには時間がかかる。

この物語が出で2年後の1976年、
ぼくがラボに入社する直前の5月、
卒論の仕上げをしていた頃、
ラボセンターにらくだ・こぶに氏に
頼まれた本を
届けにいったことがある。
彼は珍しく頭を下げ、
「いそがしい時にすまなかった。
飯でも食いに行くか」といった。
本当はすぐ帰りたかったが、
(ながくなるのは見えていたので)
Noという空気ではなかった。

その少し前、たまさか、
シニアメイトで実験的に
公開テーマ活動と称して
その日に来たラボっ子たちと
役も何も決めないで自由に
テーマ活動をするという試みをしており、
それをらくだ・こぶに氏は見ていたので、
話はしぜんと『こつばめチュチュ』の
ことになった。

ぼくたちの活動については、
試みとしては評価すると前置きしてから、
散々にダメ出しされた。
「いかに自由にといっても、
中心となる君たちひとりひとりが
浅い聴き込みと理解なのは情けない」
ということだった。
実験とはいえ、
聴き込みが浅かったのは事実で
反駁することはできなかった。

「前半についてはよく意識していたが、
後半まで緊張が続いていない」
「……たとえば?」
「『あれはシドニーまでいくんですよ』
とマスケル先生はいうが、
『もうすぐきみたちも飛ぶ。
鳥は飛行機ほどはやくないが、
ツパメは鳥のなかではいちばんはやい。
だから、虫を食べて身体をつくりなさい』
といったことを教えたいのだよ」
「なるほど、マスケル先生すごいっすね」
「じつにいいタイミングで
飛行機が飛んできた。
なにかバラバラのような
先生の質問も、
答は全てツバメだ。
ツバメの誇り、矜持を教えたい。
マスケル先生はちゃんと
目標をもって授業にでている。
そして運動会だ」
(この人はそんなことまで考えて
物語を書いているのか)

「『こつばめチュチュ』の物語は
間宮さんの音楽で始まる。
この冒頭の短い音楽はなんど聴いても
ツバメが飛んでいる音楽ではないだろう」
「そうすね、ぼくたちも
ツバメの話だからと決めつけて
はじめは飛ぼうとしました。
ところがなんだか変でした」
「うむ、ありは小学1年生!
という音楽だ」

かつてなんども書いたが
音楽は時間的だ。
時間は流れていくから、
音楽に支配性をもたせることが
物語を立体的に描くラボ・ライブラリーに
音楽がある積極的な意味だ。
時間的でも空間的でもない
テキストをコントロールするのは音楽だ。
このことを教えてくれたのがSK8だ。

たった7秒くらいの
ブリッジといわれる
短い音楽でも「一夜明けて」みたいな
時間の経過がわかる。
しかし音楽は空間や心象については、
それを示すとはかぎらない。
悲しい話だから悲しい音楽になるとは
かぎらない。
音楽が必ずしもその場の動きを
決めているわけではない。

ラボ・ライブラリーの音楽はBGM、
背景音楽ではない。
銭湯の富士山ではない。
ときには物語の前で、
ストーリィを牽引したりもする。
また、音楽とことばとの関係は
じっとラボ・ライブラリーを
聴くときと、身体をつかって
動くときでは変わってくることがあるのも
おもしろいと思う。

で酒席の続き
「三澤よ。チュチュが飛ぶ練習をしているときの
『来年もまた帰ってきますかね』は
必死にリハビリするチュチュが
まだまだ心配なのだ。
次の『もちろんだとも』はさらなる激励だ」
「であるなら、ぼくの想像では、
ここでのチュチュは
まだまだ鮮やかに
飛んでいないのですね。
ときおりふらついているかも」
「ふむ、君はたまに
まともなことをいうな」

絵本は吉原英雄先生だ。
先生は2007年に亡くなられたが、
残念ながら拝眉する機会はなかった。
先生は20世紀後半の日本を
代表する版画家のおひとりであることは
いうまでもない。

「チュチュ」絵は
2つのパターンの変化だ。
恐るべきことに
吉原先生を知らないときに
この絵本を見たとき、
「なんという手抜きだ」と思った。
アホである。

この酒席でらくだ・こぶに氏に
そのことをきくと氏は呆れた顔で、
チュチュを没個性にすることで
物語の個性を描きたかったのだと
教えてくれた。

さらに、その日は機嫌がよくなったのか
「チュチュは注射もがまんする
なかなか強い子だが、
とりわけ優等生ではない。
ふつうのツバメがトラブルに巻き込まれ、
仲間と離れて暮らして
少し成長して帰ってくる。
落下してケガをして少しずつ成長する。
この少しずつの成長を書いたんだ」
と問わず語り。

その少し前には酔いのせいか
少し前傾していた姿勢が
いつものビシッと伸びた背筋になった。
そして両肘を張ってぐいと盃を煽ると
「そろそろ行くか」といった。

ところでテーマ活動で
運動会の場面でみんなが
チュチュを先頭にしようと
全力でとばないことがあるけど、
ここでは子どものもつ
全力さがたいせつなんだなと
ふと思った。
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