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〔3-7〕映画「阿弥陀堂だより」
    ――奥信濃の美しい四季を織り込んで――

 久しく奥信州に足を向けておりませんが、思いがけず、奥信濃の美しい四季の風光を、目とこころいっぱいに見て楽しむ機会を得ました。
 年3回、65歳以上の方を対象におこなっている映画鑑賞会。ボランティアの出前映画でして、今回は「阿弥陀堂だより」。
 質の高い映像芸術でした。原作は南木佳士、芥川賞作家ですね。(わたしは原作を読んでおりませんが) 監督・脚本は小泉尭史(たかし)。黒澤明の一番弟子といわれる映画監督。(もっとも、“一番弟子”と称される人はほかにも何人かいますが) 下級武士の志を描いた前作の「雨あがる」と合わせて小泉二部作とされる、さわやかな感動作。
舞台は谷中村の六川という小さな村落。飯山市のはずれのはずれ、千曲川の源流に近いあたりらしい。ラボランドから見たら、野尻湖のむこう、さらにむこうの斑尾山を越えたところ。実際にその名のままの土地かどうかは、わたしは知りません。山々に挟まれて小さな棚田が重なる里。とにかく、美しく、これぞ日本の原風景と思わせてくれます。

shinshu

 鳥の歌、渓流の瀬音につつまれて、平和です。詩そのもののなかにいるような、おだやかな気持ちにさせられます。山ふところのこの郷に、都会生活でいためつけられた40歳代の夫婦が帰ってきます。夫の孝夫は、この地の出身の、売れない、新人賞を受賞して以来、鳴かず飛ばずの、世に見捨てられた作家(寺尾聡)。妻の美智子(樋口可南子)は、一流病院のエリート医師でしたが、過酷な勤務のなかで心と体を病む身。その病後をゆっくり癒すためにここに移り住んできました。美智子は、無医村のこの村落の診療医として迎えられ、少しずつ地域医療に力を尽くします。孝夫も、美智子とともに、故郷の人の飾り気ないあたたかさと美しい自然にとけこみ、少しずつ自分たちの生き方を取り戻していきます。

 特に刺激的な展開があるわけでなく、静かな時の流れのまま、ストーリーは淡々と進められていきます。セリフがきわめて少ない映画。控えめな音楽が、またしんみりとこころにひびく。不平をいちいち口にすることなく、人のもつ等身大の力で生きている人びと。そういう人の生死を、やさしく、そしてまたきびしく描きだす人間ドラマですね。ここには、地上デジタルテレビやBSなんて、ない、パソコンやインターネットとも無縁。コンビニもなければ、車もめったに通らない、山奥の過疎の村。これといって刺激的なものはないけれど、澄みきった光線に満ち、しっとりとした情緒で描き出されるこうした世界。灯篭流し、火祭り、神楽、剣舞といった、この土地固有の習俗もカメラにおさめて織り込み、ドキュメンタリーの味も加えて描かれるこんな映画世界が、好きです。途方もない興行成績をあげて話題になっている3D映画「アバター」のようなのもありますが、わたしとしては、どうもそういうのは…。
 
 村にひとつ、死者の霊をまつる阿弥陀堂があります。ワラ葺きの小さな、ごく粗末なお堂。便所さえない。雨風のとき、雪のときはどうなんだろう、と心配されるような…。良寛さんの五合庵をもっともっと粗末にした小屋を想像してみてください。ここの堂守をつとめるのが96歳の老婆(北林谷栄)おうめさん。「そこらにある粗末なものばかりを採って食べてきたから、ここまで長生きできたんさね。貧乏というのはありがたいもの」と、歯のない口で明るく語る、素朴な、欲を知らない、贅沢というものを知らない一人の老人の生き方。感謝のこころにあふれ、哲学的でさえある、自然に沿ったその生き方を、日本アカデミー賞の助演女優賞などを獲った北林さんの名演技で堪能する。いちばん大事なのは、阿弥陀さまをお守りすることで、欲をかき、贅沢をして、いいものを食っていたら長生きできない、というこの老婆の土着的な信仰。ズキリッ! ちょっと耳が痛いですね。

 村の広報紙の片隅に「阿弥陀堂だより」という小さな連載コラムがある。これがすばらしい。朗読する寺尾聡の朴訥な口調に、つい、涙がぽろり。おうめさんのことばを口述筆記してその記事にまとめているのが、早百合と呼ぶ若い村の独身女性(小西真奈美)。この女性、甲状腺の病気のあと、声が出せない。難病に抗して健気におうめさんの生きざまを取材しつづける。早百合のほうからは、筆談で意思を通わせるのみだが、ふたりのあいだには、あたたかく通いあうものがある。しかし、残酷にも、早百合の腫瘍は他に転移して、いよいよ生死の淵をさまよう事態に。町の病院に移しての大手術。命の保証はゼロに近いもの。ですが、美智子の献身的な治療で、どうにか村に帰ってくることができた早百合。「ありがとう、おうめさん」。あっ、わずかだが、声も出るではないか! 老婆おうめさんの喜ぶまいことか! 朝に晩に、いやヒマあるごとに阿弥陀さまにお祈りしていたおかげと、老婆は娘を抱きしめて離そうとしない。

 孝夫の中学校のときの恩師(田村高広)は、胃がんを抱えている。日々、古風な坐り机の前で欣然と書をして静かに時をすごしている。「天上大風」、良寛さんの澄明なこころに少しでも近づこうと、その四字を繰り返し、繰り返し…。孝夫と美智子はときどきこの家に立ち寄るが、そばにいるだけでほとんどことばをかけることもない。血圧計などの診療用具さえ持たずに、ただじっと見ているだけの美智子。医師の診察など頑として受けつけない、気韻の満ちた老人のすがた。
 がんで死期が迫っていても、病気でない人がいる。その一方、ちょっとの風邪でも、重い病気になってしまう人もいる。問題は、こころを病んでいるかどうかであって、重篤な疾患にかかっていても、こころを病んでいない人は、病人ではない、と。
 そして、上品な老妻(香川京子)を残して、あちらへ旅だつ。おだやかに…。「先に行くよ」「はい、わたしもそんなにお待たせさせませんからね」。
 いっしょに農道を帰りながら、美智子が孝夫に言う、「先生はご自分で呼吸を止められましたね」

 残念ながら、あと10分か15分を残して、仕事の都合があって最後までは見られませんでした。したがいまして、制作者の意図したところが、ほんとうはどこにあったのか、わかりません。でも、しみじみといい映画にふれた思いに浸ることができた一日でした。〔2010.03.26〕

BBS〔ばーばーじゅこんさん/2010.03.26〕
 北林谷栄さんのお婆さんの姿、雪で覆われた村と山の木々、現世からつながっているあの世への道のような映像、感動的でした。[阿弥陀堂」にはでかけたいと思ったのですが、映画のあと出かける方が多いとか聞きましたので、出かけずにおりました。
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 北林さん、見事でしたね。俳優として演じているというよりは、何十年もの星霜、あの御堂でのつつましい暮らしをしてきた人、それ以外には思えないほどの自然さであり、存在感でしたね。ぜんぜんそれらしくはないですが、その名演がこの作品のハイライトではないでしょうか。
 人それぞれの生き方、それぞれの老い方、それぞれの死に方を村のすみからずう〜っと長いこと見つめてきた阿弥陀堂。しみじみと深いです。
 恵まれた自然のなかで、背伸びせず、頑張り過ぎず、人のもつ原寸大の力でつつましく生きている人びとの、あたたかさ、誠実さ。都会生活にぼろぼろに敗れ、疲れはてた夫婦が、そのあたたかさのなかで自分を取り戻していくすがたも感動的です。
 老人ばかりが住む村落。そこには、老人福祉施設やコミュニティハウスのようなものががあるわけでもありません。それでも、当たり前のように互いに支えあい、助けあう村びとたち。開発され、発展することもない山ふところの村にあって、樋口可南子さん(美智子)は、神々しいまでのノーブルさ、美しさを見せてくれる存在。結末のほうで、43歳にしておなかに新しい命をさずかるのですが、かつて流産し、子どもに選ばれることのできなかった自分の不明を責めてこころを病んでいた彼女。その彼女に新しい命が! 泣かせますね。
 この映画を、ばーばーじゅこんさん、ご覧になっていらっしゃるんですね。うれしいです。いい映画ですので、たくさんの人に観ていただきたいところ。平成14年の製作、そんなに古くなく、DVDで出ているようですので。

 あの阿弥陀堂は、この映画のためにつくられたオープンセットなんだそうですね。映画にたくさんの村びとたちがエキストラで出ていますが、ロケに使ったそのセットは今もそのまま残されていて、村びとたちはその前を通るとき、かならず頭を下げ、手を合わせるんだとか。棚田など、周辺の美しい風景もあって、以来、観光客もひっきりなしに訪れ、この御堂は観光のスポットになっているといううわさ。
 改めて手許の地図帳を開いてみましたが、わたしの地図帳では谷中村六川というところは見つけられませんでした。もしおわかりでしたら、お教えくださいませんか。〔2010.03.27〕
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