幼児教育・英語教室のラボ・パーティ
■■■ 運営事務局より ■■■
ひろば@LABOは,ラボ教育センターが展開する
「ラボ・パーティ」に関わる皆さんのコミュニティ・ネットワークです。
「ラボ・パーティ」については 公式サイト  をご覧ください。
ラボ公式HPTOP新着一覧趣味・ゲームランダム新規登録戻る 0489131
  
Home
Diary
Profile
BBS
Bookmarks
Schedule
メール
・メッセージを送る
・友達に教える
ページ一覧
・ 創作短編童話1
・ 青少年育成
・ アート回廊=1
 アート回廊=2
・ 勘違い語塾
・ 旅の落し文
 HAWAII
・ ものはづけ①
 ことばあそび
 読めますか
・ 萬葉植物
・ 小夜 & GANOトーク=1
 S&Gトーク=2
 S&Gトーク=3
 S&Gトーク=4
 S&Gトーク=5
 S&Gトーク=6
 S&Gトーク=7
 S&Gトーク=8
・ 古典芸能〔1〕
 伝統的技芸
 古典芸能(2)
・ 物語寸景(1)
 物語寸景2-1
 物語寸景・3
 物語寸景・4
 物語寸景2-2
 物語寸景・5
 物語寸景2-3
 物語寸景2-4
 物語寸景・6
 物語寸景2-5
 物語寸景・7
・ つれづれ塾《1》
 その《2》ラボ
 その《3》映画1
 その《4》植物
 その《5》古典1
 その《6》詩歌
 その《5》古典2
 その《3》映画2
・ 今月の花神=1
 今月の花神=2
・ 本、譲ります
・ ウの眼
 タカの眼
 イワシの眼
・ 狂歌で遊ぼ!
 川柳で遊ぼ!
 変漢ひろば
 狂歌-〔2〕
・ 小径を行けば…
・ ことばの旅路①
 その《2》
 その《3》
0705

創作短編童話〔1〕



04059
発売2014年4月より お求めはお近くの書店
またはクロネコヤマトのブックサービス 0120-29-9625へ。




〔1-5〕もゑの庭



 杖の先がコツンとひとつ道をたたいた。
 「お花がすきなんだね。どんな話をしていたの、お花さんと」
 道のわきにしゃがんでいたもゑが、黒い杖にそって目を上げると、小さなイヌをだいたおじいさんがひげのなかで笑顔を傾けていた。もゑがおどろいて立ち上がろうとするより早く、老人は少女とならんでそこにかがみこんだ。
 「朝の雨のあと、草も木もキラキラかがやいている。気持ちがいいね、ここにいると」
 白い花弁をいっぱいつけたヤマボウシが五月の光に浮き立ち、右と左にずうーっとむこうまでつづいている道。清い風がその花びらをゆらして通っていく。一本のヤマボウシの下に、だれかが植えたのか、それとも自然に生えたのか、ポピーが見られた。風に首をゆすり、うすいピンクの花弁をチョウのように踊らせていた。もゑはそれを三十分以上も見ていたろうか。
 少女と老人は、さらに数分、ことばもなくピンクの踊り子の舞いを見つめていた。さいしょにことばを発したのは少女だった。
 「もゑは悪い子なの。もう、学校に行かなくてもいいって」
 顔をふせたまま、口のなかでいった。
 「ほう、だれかな、そんなことをいうのは」
 「おかあさん」
 「おかあさんにしかられたんだね。なにかイタズラしたのかな、もゑちゃんは」
 「イタズラなんかしない、悪いことなんかしていない。ただ、学校へ行くの、いやだといっただけ。ちょっといっただけなのに」
 少女はようやく顔をあげた。その目にはいっぱい、いっぱい涙が浮かんでいた。その涙の粒も、雨のあとの光を受けて水晶のようにかがやいていた。
 「困ったね。学校がいやになったのかぁ」
 「本ばかり読んでいて、お友だちをつくろうとしない子は、悪い子だって。一年生になってもお友だちのできない子は、だめな子だって」
 もゑは声をつまらせてしゃくりあげた。
 「本のすきな子が悪い子だなんて、おじいちゃんはそうは思わない。おかあさんだってそうさ、本気でそんなふうには思っていない」
「もゑはひとりでいることが多いの。だから、本はあまり読まないようにするから、そのかわり、ケータイがほしいといったの」
 「そしたら、とんでもない、とんでもない、といわれた。そうだね」
 「おかあさんは、おつとめしているの。小学校の先生。車で一時間以上もかかる町の小さな学校なの」
 小学校の先生と聞いて、老人はぎょっと目をむいた。
 「もゑのようにカンのつよい子は、幸せになれないって」
 老人のうでのなかで、マルチーズが老人のうでから出たいともがき、クークー鳴いた。
 「もゑちゃんのような素直ないい子が幸せになれないなんて、そんなはずないさ」
 「おじいちゃんって、だれ? もゑのこと知っているの?」
 「ああ、知っているともさ。ずっと、ずうーっと前から見ていたから。こころにきれいなお花をもっている子が、おじいちゃんはだいすきだから」
 「おかあさんのことも知っているの?」
 「ああ。もゑちゃんのおとうさんのことだって。おかあさんと離婚したあと、外国で働いているのよね。このあいだもゑちゃんにお手紙がとどいた。それにはどんなことが書かれていたのかな」
 「おとうさんに会いたいわ。おかあさんは、いつも、忙しい、忙しいって…。そればっかり」
 「そうそう、いつも忙しそうにしている。忙しいを漢字で書くと、心を亡くすと書く。ちょっと心を亡くしたおかあさんですから、ときには、めんどうになって、うるさいっ! と思うこともあるさ。いらいらとこころを乱して、子どもの顔も見たくないときだってある」
 「学校の先生をしているのに、休みなさい、学校なんて行かなくていい、って」
 「さてさて、学校がいやだ、お友だちに会いたくない、といったのはどこのどなたさんでしたかね」
 「本気じゃないわ。お友だちだっていっぱいほしい」
 「感性のするどい子を、ひとは忙しくしているとき、わずらわしく思うことだってあるさ。もゑちゃんがきらいになったわけじゃない、それはほんとうの心じゃない」
 老人は杖をもつ手に力をこめ、よっこらしょと腰をあげ、ひざを伸ばした。
 「よかったら、おじいちゃんの家に来てみないかな。ここからウラに入ってすぐなんだけど。もゑちゃんに見せたいものがある」
 「おじいちゃんは悪いひとじゃないよね、こわいひとじゃないよね」
 「どうかな。それはもゑちゃんのこころが決めること」
 「いなかのおじいちゃんともちがうけど、やさしそう。もゑはおじいちゃんとならお話ができるような気がするの、いつもは無口な子っていわれるけど」
       

 クレマチスの花をつけた垣根のあいだの小さな木戸をくぐる。トコトコとうれしそうに走るマルチーズにみちびかれて、緑いっぱいの庭に出た。ジャスミンのような香りがして、白と紫のニオイバンマツリ(マツリカ)の花が左右からせまり、トンネルをつくっている。つぎには、まっ白な卯の花が敷石づたいにこぼれ落ちている小径。
 表通りからひとつ入っただけなのに、すべてが止まったように静かだった。もう少し行くと、左右がパッと開けた。おじいさんは、そこに置かれたベンチに杖を立てかけて坐り、もゑにも坐るよううながした。
 「こんなところにこんなお花のおうちがあるなんて、知らなかったわ。アリスになったようなふしぎな気分」
 「おうちといっても、おうちらしいものはないけれど、ごらん、奇跡のような庭がある。どうかな、いい香りがしないかな」
 「胸のおくまでスーッと透きとおるわ。それに、耳がいたくなるほど静か」
 「それはよかった。もゑちゃんには、この静けさのなかでゆっくり乱れたこころをととのえてほしい」
 「悲しいこと、くやしいこと、こころにわだかまるものを、波が洗い去ってくれたみたいに、とってもさわやか」
 「ひとはそれぞれ自分のこころに庭をもっている。そこは、四季それぞれの花が咲くように、いのち盛んなときもあれば、冷たい風が吹くころ、枝先まで冬枯れて、ものかげに息をひそめてじいっと春を待つときもある。いつもとりどりの花の咲いている庭もあれば、荒野のようにいばらのはびこる庭もある。どっしりとした大樹が大空にむかってぐーんと手をのばしている庭もあるだろう。そこには、小鳥や虫たちやリスたちも、たえずお客にやってくる。夏の午後、大樹がつくる涼しい影のなかで子どもたちがさまざまな遊びをあそぶ。秋にはまっ赤な実をつける木も」
 「もゑは、かわいい山野草にうずもれたお庭がいいな。お星さまみたいなお花がいっぱい咲く…」
 「こころにどんなお庭をつくるか、それはもゑちゃんしだい。だいじなのは、いつもこころの土をたがやし、水を絶やさないこと、こころの強さのためには、外に出てお日さまの光のシャワーをあびせることも大事だね」
 「いいお庭にいると、こころにあこがれが満ちてくるの、たのしい夢がわいてくるの」
 「そう。そうやって、ゆたかな、強いこころの庭がつくられていく。ゆたかな庭には、小鳥たち、虫たち、いっぱい、いっぱいお友だちがやってきて、たのしいあそびをする。みんなでたのしいお話をする、さびしさも苦しさもわすれて」


= = = = = = = = = = = = = = = =


〔1-2〕狼のまゆ毛――日本昔ばなし「人擬」(ひともどき)より再話


 ある村に貧乏な夫婦もんがいた。
 日のあたらぬ石ころだらけの畑をすこしばかり与えられていたので、働いても働いても暮らし向きはよくならなかった。おまけに、このところは冷害つづき。
 男は、その日、家で待つおかみさんの、苦が虫を噛みつぶしたような顔を見るのがつらく、日暮れ近くなっても手鍬(てぐわ)の柄(え)によりかかって、暮れ残った雲を見つめたまま、いつまでも動こうとしなかった。
 暗い目を赤く染まった空に向けて、「百姓はだめだぁ」とひとり涙をこぼし、こうなったらいっそのこと、山の狼に喰われて死んでしまったほうがましだ、と思いたって、奥山に登った。
 森のなかでひと晩をすごし、つぎの朝、歩きまわったあと、狼の巣穴を見つけると、その前にころんと横たわって、狼の現われるのを待っていた。
 ゆうべの疲れもあってウトウトするうち、ずいぶん時がたったようであった。ふと目をあけると、年とった狼が近くに来て、男を上から下まで、くんくんと嗅ぎまわっていた。覚悟をきめていた男は、やっと来てくれたかと、
「でぇじょうぶだ、おら、鉄砲も刃物も持っちゃぁいねぇ。さあ、早いとこ、バリッとひとおもいにおらを喰ってくんろ」
 と声をかけた。ところが狼は、こどもがいやいやをするように首を振って、
「さっさと去(い)ね。おめぇなんぞまずくって喰えたもんじゃねぇわ」
 といってうしろを向き、首を落として立ち去ろうとした。
「まてまて。どうしておらがまずいことがあるもんか。おらのほうから喜んで喰われてやろうってんだぞ。それとも、これまでいろんなところで、いろんなヤツにばかにされてきたが、てめぇまでおらをばかにするのか、三男坊のどうにもならねぇ貧乏人なんざぁ喰われねぇといって…」
 そういっても、狼は飛びかかってくるふうはなかった。
「おめぇは真人間だからなぁ。そんなもんは喰ってもちっともうまかぁねぇ。ばかななかまがいて、よせばいいのに、あるときそういうのを喰っちまった。そのひどいまずさにそいつの鼻はひん曲がっちまったまま、もう直らねぇ。それ以来、みんなの笑いもんよぅ。せめておめぇのおみさんでもつれてくりゃぁよかったんたがなぁ」
 そういいながら、狼はこんどはすこし親しげに男に近づき、自分のまゆ毛を一本引き抜いて男にくれた。
「目の前にこの毛筋をかざしてひとを見てみるがいい。おめぇさんの運も変わろうってもんさ。さっさとこの山から去(い)ね。そして、もう二度とここには来ぬことだ」
 
 そういわれて仕方なく、男は指先に狼のまゆ毛をつまみながら山を降り、重い足をひきずって家に帰った。うしろを向いたままなんの愛想もなく男を迎えたおかみさんを、ためしにと思って、男は狼にもらったまゆ毛をかざして見た。
 なんとしたこと! 何年も連れ添ってきたかみさんが、太古雌鳥(おおふるどり)のすがたをしているではないか。
 男は肝をつぶして、取るものもとりあえず家を飛び出してしまった。息せき村をかけぬけて町に出、町のかどに立ってはずむ息をととのええた。
 ようやくわれに返り、こんどはせわしげに道を行き来する男や女、年寄りやこども、商売人や奉公人を狼のまゆ毛をかざして見た。なるほど、外形ばかりはりっぱな人間でも、よく見ると、みんな異様なすがたをしていることがわかった。それは、イヌの顔であったりネコの顔であったり、ネズミやキツネやイノシシの顔であったり、シカもいる、タヌキもイタチもいる、ウマやウシかと思えば、ヘビやカエルやトカゲもいて、ひとの本性はことごとくあさましい畜生や虫けらのたぐいであることがわかった。なかには、これまで村でよく見知っていたひとも何人かいたが、狼のまゆ毛のむこうでは、ひとの顔をしているものはなかった。
 世の中には真人間がこんなにもいないものかとあきれ、ひどくがっかりして、男は、これから先、どうしたものかと途方にくれてしまった。

 こんなにして長いこと町の人びとのあられもないすがたを見ているうち、早や夕暮れどきになってしまった。帰るところはなし、さて、今晩はどこで寝たものか、と腰を伸ばした。そのとき、ふと見ると、麻布を背負ったみすぼらしい女が通りかかった。髪は乱れ、ボロボロの着物のすそをひきずり、足なえらしく、地面に片ほうの足をすりつけるような歩き方をして、男の前をとおりすぎようとしていた。ところが、男があらためて狼のまゆ毛でその女を見たところ、ややっ、女はまぎれもなく女、この女ばかりは畜生のすがたをしていなかった。
 男はこの女のあとをどこまでもついて行き、町のはずれの森の入口で追いついて話しかけ、ふたりはいっしょに、つつましい所帯をもつことにした。
 それからというもの、男にはすこしずつ運が向いてきて、別の村でりっぱな家を持ち、いいこどもたちにも恵まれて、幸せにくらしたそうだ。
 あの狼のまゆ毛はどうしたかって? さあ、どうしたのかなぁ…。ほんとうの女に出会ったあと、風に吹き飛ばされてどこかへいっちまった、というはなしだよ。そんなちっちゃなもの、飛んでいたってだれも気づかなかったろうからね。


     ===================================================================


〔1-1〕でんでんむし、歌いなさい

                            
六月のおわりの森は、日が落ちるとすぐ、鳥たちの声はやみ、ひっそりとだまりこんだ。
月の光もとどかない木々のしげみ。
それでも、よく耳をすますと、夜霧を集めたしずくが葉ずえをすべり落ち、
朽ちかけた落ち葉にあたってカサリと鳴る音がときどき聞こえる。

ぼくはカタツムリ。この鎮守の森で梅雨の前に生まれたばかり。
どうしてぼくがここにいるのか、それは知らない。
ここがどういうところなのかも知らない。そして、ここしか知らないんだ。
でも、もう赤ちゃんじゃないよ。
朝、お日さまがあがると葉っぱの裏にかくれ、
殻のなかに身をまるめて眠るのがならわしだ。
そんなのつまんないなあ、と思うことがある。

だけど、雨の日や雨あがりの森はすてきだよ。
そんなときは一日じゅう、やわらかい木の芽やキノコをおなかいっぱいたべられる。
とくに萌え出たばかりのコケの味は最高さ。

このごろは、ぼくたちのこと、みんなはあまり知らないみたい。
家のそばから森や林がなくなり、家や工場がにょきにょき建って、
道はどこもアスファルトになっちゃったから、カタツムリにはすみにくいものね。
でも、雨のやんだあとなど、葉っぱのうえにキラキラ光る
銀色のスジを見ることがあると思うよ。
それがぼくたちが通ったあとで、ねばねばがかわいたものなんだ。
よく見てごらんよ、そばにまだぼくたちのなかまがいるかもしれないよ。
でんでんむしじゃなくて、ナメクジだったりすることもあるけどね。

ナメクジといえば、ぼく、ときどき思うんだけど、
カタツムリばかりがなんでこんな大きな殻を背負っていなけりゃならないんだろう、
ナメクジみたいだったら、もっと早く動けるし、
木ののぼり降りも、らくでいいのになあ、って。
生まれたときからなんだよ、これ。
どうしてなの、ってかあさんに聞いたことがあるの。そしたら
「ばかだね、おまえ、ナメクジみたいにみんなのきらわれものになりたいのかい」
っていうんだ。
「でんでんむしむし、カタツムリ…ツノ出せ、ヤリ出せ、メダマ出せ」
なんてこどもの歌もあり、運がよけりゃ、ちっちゃい子の遊び相手にしてもらえる、
それもカタツムリには殻があるからなんだって。
ぼくにはよくわかんない。まあ、この殻は薄いし、そんなに重くはないけどね。
これがもっと厚くて重いものだったら、木のぼりはもっと重労働だろうからね。
それに、夜ならまだいいんだけど、お日さまが出てきたり、
かわいた風が吹いてきたら、ぼくたち、もう動けなくなっちゃう。
そんなときは、アワをいっぱいふいてそのなかにかくれるか、
殻のなかに身をまるめてじっとしているしかないんだ。
夏のさかり、日照りのつづくころがいちばん苦手で、
なかまのなかには秋がくるころまで「夏眠」しているのもいるんだと、
かあさん、いってた。

どう思う、ぼくたちって、けっこうすてきだと思わないかい。
うるさい声で鳴くこともない。いやなにおいも出さない。
刺したりかじったりもしないよ。
逃げ出すといっても、そんなに遠くにはいけないから、すぐ見つかっちゃう。
だけど、神さまはどう考えてぼくたちをつくったんだろう、と思うことがある。
だってそうじゃないか、敵におそわれたようなとき、
自分を守る手段をぼくたちは何ひとつもっていないんだ。
ほかのいきものは早く飛べるつばさをもっていたり、
針やカマをもっていたりするのに。これじゃ不公平じゃないか。
カラスやトンビにねらわれることもある。
サルやキツネ、イノシシのキバにかけられることもある。
ぼくたち、ツノはもってるけど、これ、そんなときにはぜんぜん役には立たないもん。
危険がせまっても身をかくすことができず、
いつだって敵にやられっぱなしの弱虫。ぼく、考えちゃう、
それならいっそのこと、スズムシやコオロギみたいに
きれいな声で歌えたらいいのになぁ、
あっちとこっちで友だちと合唱できたら楽しいだろうなぁ、って。

そんなことを思うと、しぜんになみだが出てきちゃう。
このあいだ葉っぱのかげで泣いていると、かあさんがこんなことをいった
――自分の身を守るためといって、敵と戦ってどうするの。
いいかい、どんなに戦いをしかけられても、相手になってはいけないよ。
世間にそむかない、自然にさからわない、
これがでんでんむし族のいちばんの誇りなのよ。
何よりも強くて尊いのは、抵抗しないで耐えること、相手を許すことなんだ、と。

そういうけど、ぼくにはよくわかんない。
わかんないよ、というと、かあさんはいつもガンジーという人の話をしてくれる。
――「善きことはカタツムリの速度で動く」といって、
しんぼう強くこらえて祖国を救い、差別から人間を救った偉い人なのだそうだ。
偉い人がぼくたちカタツムリのことを認めてくれている。
たしかに、ぼくたちでんでんむし、力はないけど、
ね、そんなにだめないきものじゃない、って、ぼく思うんだけど。
Copyright(C)2002 Labo Teaching Information Center.All rights reserved.