言語の違いを越えたコミュニケーション力を育む

ペレラ柴田奈津子

上智大学大学院非常勤講師

 私の母はラボ・テューターで,私自身も18歳までラボ・パーティの会員(ラボっ子)でした。ラボでたくさんのお話や歌を繰り返し聞いて覚えたことで聞く耳が育ち,英語と日本語のラボ・ライブラリー(英語と日本語で録音されたラボの物語教材)を聞いて英語の大まかな意味を理解する経験は,細かい文法理解や翻訳作業に役立ちました。そして,英語の知識やスキルを超えて大切なコミュニケーション力も,アメリカで博士号を取ることにつながったと思います。

 このような私的体験を通して,ラボの大きな特徴を次の3つに絞ってみました。

 ラボは,
 1.学校英語の先取りや補習ではない。
 2.言語そのものを大事にしている。
 3.言語活動を豊かにすることが最大の目的。

 ラボでは英語を教科として教えるという立場をとっていません。学校英語では成績のために勉強しますが,ラボではことばを楽しむために,歌やストーリーを味わいます。ラボっ子は,先生に指示されて勉強する代わりに,自分で使いたい単語を並べてみたり,ラボ・ライブラリーを何度も聞いて真似してみたり,意味を解釈してみたりします。このような意味で,ラボは良い成績を取ることには全く無頓着なのですが,結果的にラボで身につける英語の力は学校英語にもプラスの影響を与えることになります。この目的と結果の逆転的発想こそ,言語習得の鍵だといえます。

 また,ラボでは英語だけでなく,韓国語やスペイン語など他の外国語への興味,そして母語である日本語の力も育てようとしています。英語は世界共通語として大変メリットが大きいのは事実ですが,英語教育の意図せぬ落とし穴として,他の言語をないがしろにしたり,言語間に優劣をつけてしまう弊害も起こりえます。ラボでは二言語併用のラボ・ライブラリーを教材として用いることで,言語間の相違にラボっ子自らが気づき,垣根を取り払う態度を養います。単語や発音,文法は違っても,言語として自分のなかで二つでも三つでも違和感なく共存する,そのような真のバイリンガルの芽を育てるのがラボの強みです。

 最後に,ラボは単に言語知識を養う場ではなく,言語を使ったコミュニケーション活動が行われる場です。昔からの英語教育の影響で,英語の知識があれば即使えるようになるという誤解がありますが,例えば野球のルールだけ知っていれば野球ができるとは誰も思いませんよね。しかも言語がスポーツよりも複雑なのは,ルールとスキルだけでなく,刻々と変化するその場のコミュニケーションを成り立たせ,人間関係を築かなければならない点にあります。ラボでは言語活動を行うことに最も重きを置いていて,それが英語でも日本語でも良いという立場を取っています。バイリンガルのミニ・コミュニティとしてのラボ・パーティで活動することは,将来,世界中のどこに行っても言語の違いを越えてその土地のメンバーになれる,そんな素地をつくっていることに他なりません。

お話を伺った方

ペレラ柴田奈津子(ぺれら しばた なつこ)

上智大学大学院非常勤講師

国際基督教大学卒。コロンビア大学ティーチャーズカレッジ修士号,ジョージタウン大学博士号取得(応用言語学)。全米バイリンガル教育学会の優秀博士論文賞を受賞。アメリカの大学で日本語コースを担当,アメリカ教育省でバイリンガル教育補助金助成審査員を務めた。帰国後,国際基督教大学と上智大学にて日本語教授法を教える。著書に「子どもの第二言語習得プロセス―プレハブ言語から創造言語へ」彩流社(日本図書館協会選定図書)。