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5年前,不合格を覚悟のうえ,でも一度は難しいものに挑戦してみたくて採用試験を受けた難関,国際交流基金の日本語教育派遣専門家。奇跡的に合格し勤務先の通知が届いた。行き先はドイツ。それまで縁もゆかりもなかった街ケルンに私を今日まで繋ぎとめたのは,次におとずれる新しい出会いたち。最初の勤務先での一般講座の16〜70歳を皮切りに,日本語補修校の5〜9歳のちびっ子と中高生,そしてボン大学日本学科の大学生など,教室での出会いの数=総勢247名。
ある日のちびっ子クラス。教室に行くと,あれ?子どもたちがいない。机の下から聞こえる忍び笑い。よーし,今日は机の下で授業だ! 45分間机の下にいた私は,翌日腰と背中が痛くて往生したが,とってもうれしかった。子どもたちが年の差を越えて一つのグループに育ったから。クラスの皆が一丸となって先生にいたずらを仕掛けるには,大いなるチームワークを必要とするものだ。長くラボっ子だった私にはよ〜く分かる。
「♪頭,肩,膝,足,膝,足・・・」歌に興じてキャッキャいっているのは前段のチビっ子たちではない。ボン大学生である。奥村先生はちょっとヘンだとご存知の学生はこんな遊びにもつき合ってくれる。先生が時どきやるこんな遊びに当初は戸惑っていた学生も徐々に洗礼を受け,ついにはみんな「ヘン」になってしまった・・・・・・。
“spanned!”は“exciting”という意味のドイツ語。「大変でしょう?」と聞かれる度に,その答えに私が使う表現である。ドイツの前年齢層が相手の私の日常。大変じゃないというと嘘になるが,私の身体をラボマークの形をしたヘモグロビンが流れている限りおもしろいことに対するワクワクのほうが勝ってしまう。人生の苦しい場面でこれほど役に立つヘモグロビンはなかなかない。
薄情な私は人生のなかに数ある出会いを案外簡単に忘れてしまうが教室での出会いだけは忘れない。一緒にのどちんこを見せて笑いあった時間を共有しているから,そしてお互いの人生に「片足以上」を突っ込んでしまうから。皆さんが今までに出会った,今出会っている,そしてこれから出会うだろう,ヒト・モノ・コトのすべてはかけがえのない財産。その一部である「ワクワクラボマークへモグロビン」を誇りに思い,たいせつに育ててくれることを願っています。
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