福音館書店のメルマガより(抜粋)
【ラチとライオン】
「この本、読んで!」と、その男の子は何度もせがむのだそうです。
これは、ある保育園で読み聞かせをした知人から聞いた話です。
男の子が持ってきたのは、1960年代前半、つまり40年以上前ににハンガリーで出版された『ラチとらいおん』という絵本でした。
弱虫で怖がりの男の子ラチが小さな赤いライオンの助けを借りて、生きる力を手にいれるというストーリー。
絵本の表紙には暗闇(すなわち不安)の中をライオンに導かれて進むラチの姿が描かれており、この本の内容を象徴しています。
知人が言います。
「いや、その園の保育士さんに聞いたんだけどね。その男の子、お母さんがかなり重たい病気で 入院中らしいんだよ。お父さんもそちらにかかりきりらしくってサ……。
そんな子が『ラチ』を読んでくれ、っていうンだぜ。
何度でも読んでやるとも!っていう気になっちゃッたよ……」。
もちろん、お母様のご病気と男の子がこの絵本を読んでもらいたがったこと、
ふたつの事実の間に直接の因果関係があるかどうかはわかりません。
“直接”ということであれば、むしろない可能性のほうが高いのではないかと思います。
ただ、この話を聞いたとき、私の頭の中には、『ラチとらいおん』の作者の言葉が思い浮かんだのです。
今年の2月、『ラチとらいおん』を描いたマレーク・ベロニカさんが来日されました。
お年は67歳と、やや高齢ですが、大阪と東京で開催された講演会では、やさしく、あたたかく、それでいてパワフルな語り口で私たちを魅了してくれました。
そのマレークさんがこんなことを言っていたのです。
。
「実はある時期、『ラチとらいおん』はもう時代遅れなのではないか、と思っていたのです」と。なぜなら
「情報もモノも豊富なこの時代、今の子どもたちには恐れるものなどなにもないの
ではないか、ラチの気持ちなんてわからないのではないか、と思ったからです」。
しかし、あるとき、ハンガリーの子どもたちの前でマレークさんは『ラチ』の読
み聞かせをします。「そのときでした」、とマレークさん。
「私の考えは間違いだったと気づいたのです。子どもたちはとても真剣にお話を聞いてくれました。その様子を見ているうちに、ああ、今を生きる子どもたちも、恐怖や不安と無縁では
ないのだ、とわかったのです……」。
『ラチとらいおん』、および、マレーク・ベロニカさんについて、詳しくお知りになりたい方はどうぞ「母の友」2005年9月号をご覧ください。ロング・インタビューを掲載してあるそうです。 |