★「星の王子さま」もうひとつの秘密 |
08月18日 (水) |
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掲示板に書き込まれたPlay with me さんの「すみきった想像力」のことばに導かれて、また『星の王子さま』の世界に久しぶりに立ちもどってきました。「たいせつなことは目に見えない」という主旋律によって展開される深遠な哲理と寓意のこめられた文学的宇宙。ここにはたくさんのナゾが秘められ、興味は尽きません。ほんとうに、子どものしなやかな感性、自由な心を持ちつづけているひとなら、おもしろくてならない文学作品といえるのではないでしょうか。
読むたびにそこに埋めこまれた秘密が見えてきます。事実、あらゆる作品は、それが書かれた時代・政治状況、または作家の生き方とその内面、それらと無関係であることはできません。とりわけこの童話が書かれたころは言論統制のきびしい時代でした。1940年6月にパリはドイツ軍に占領されています。その傀儡としてペタン元帥によるヴィシー政権が樹立し、フランス北部はドイツ軍に、南部はヴィシー政府が管轄、出版物にはたいへんきびしい検閲がはいり、言論界は暗い「沈黙の時代」にありました。バーネットの『小公女』でさえ禁書になったくらいです。ですから、悲しいほどに美しいこの名作も、祖国を離れたアメリカのニューヨークで書かれ、「たいせつなことは目にみえない」というように、「いちばんかんじんなところは下に深く埋めて隠し」、カモフラージュして書いているわけですね。
これまでに掘り出した秘密については、地域の市民講座や読書会などで話し、小論にまとめもしました(左の「ページ一覧」のうち「物語寸景〈2〉」の「サン=テグジュペリ・星の王子さま」参照。今回、Play with meさんに読んでいただいたのはそこで紹介している小論文のことです)。バラの秘密についても別刷にしました。
で、今回、サン=テグジュペリが『星の王子さま』を通してもっともかんじんな主張をいうのに、どうしてキツネの口に託したのかということです。キツネといえば、日本の民話や昔話だけでなく、世界のおおよそあらゆるところで、信用のできない、ズル賢い嫌われものです。崇高な哲理を語るにはふさわしくないマイナスイメージのキャラクターです。そのキツネにたいせつなことを星の王子さまに教える役割を負わせている。あまり信用ならぬそんなものに! なぜか。
ここに絶望的な人間不信にある作者のすがたが見えはしないだろうか。諷刺的にえがかれている六つの星で出会うわけのわからぬ、しかしドキッとさせられるほどリアルなおとなたち。それに象徴される人物たちにホトホトうんざりしている作者の顔が見えます。
「心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは、目に見えないんだよ」といい、王子に、一本のバラの花のもとに帰ることを説き、自分の星に帰ることを決意させます。また、キツネはこうもいいます。
「人間ってやつぁ、いまじゃ、もう、なにもわかるひまがないんだ。あきんどの店で、できあいの品物を買ってるんだがね。友だちを売りものにしているあきんどなんて、ありゃしないんだから、人間のやつ、いまじゃ、友だちなんかもってやしないんだ」
ほんとうに自分のアタマで考えることをせず、規格品ばかりのなかで生きているわたしたちのいまの生活、それぞれが利己的で、人間関係がうすく、ほんとうの友だちをもつことのすくないいまのようすを語っているようでもありますが、それとは別に、これがこの作家が生きていた時代の状況であったということですね。
王子が毒蛇にわざと足を噛ませて、死という形で自分の星に帰っていったように、サン=テグジュペリも、この作品を書きあげたあとすぐ、危険を承知で無理やり長距離偵察部隊に復帰し、コルシカの基地から飛び立って、そのまま帰らぬひとになりました。もう覚悟を決めていたんですね。それくらいこの人の絶望は深かったということでしょうか。
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Re:★「星の王子さま」もうひとつの秘密(08月18日)
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Play with meさん (2004年08月20日 20時58分)
何度も読み返すたびに「星の王子さま」の伝えようとすることが深まってきま
す。わがままなバラの花だけれど、王子さまを愛しているのがわかり、王子様
も知っているんだなーと感じます。愛していながら素直に表現できないバラの
花。妻、コンスエロ・スンシンさん。
ばらの・・・別冊是非読ませてください。楽しみにしています。
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Re:Re:★「星の王子さま」もうひとつの秘密(08月18日)
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がのさん (2004年08月20日 23時48分)
Play with meさん
>何度も読み返すたびに「星の王子さま」の伝えようとすることが深まってき
ます。わがままなバラの花。愛していながら素直に表現できないバラの花。
妻、コンスエロ・スンシンさん。
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高慢チキでわがままなバラに嫌気がさして自分の星を飛び出してしまう星の王
子さま。なんだか、気の弱い(!)わたしのようで身につまされます。サン=
テグジュペリについてはいまも世界じゅうが神格化しているものですから、う
っかり悪口など云えないのですが、にもかかわらず、ずうーっと気にかかって
いたことの一つがバラと星の王子さまとの関係。それについてはすでにPlay
with meさんにお送りした小文「わがままなバラと 光に飢えて空高くのぼっ
ていった 星の王子さまと…」で私見をまとめさせていただきました(すでに
お読みいただいているはずですが)。この作者の奥さんだった中米エルサルバ
ドル生まれの情熱的な女性、コンスエロ・スンシンさんの回想録『バラの回
想』が明らかにしていくサン=テグジュペリ像とともに、ひたすら待つことに
耐えたバラの孤独に目を近づけていただきました。名門貴族の誇りとトゲもつ
女と。いや、もっと別な見方をするひとも多いことでしょう。少し時間を置い
てまた読み返したら、まったく別なものがそこに引き出せるかも知れません。
そういう作品ですよね、これは。
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Re:Re:Re:★「星の王子さま」もうひとつの秘密(08月18日)
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Play with meさん (2004年08月22日 09時08分)
>がのさんへ
なんだか、気の弱い(!)わたしのようで身につまされます。
→ そうですか。。。。?
「わがままなバラと 光に飢えて空高くのぼっていった 星の王子さまと…」
→ 他にもあるのかと勘違いしていました。
また読み返したら、まったく別なものがそこに引き出せるかも知れません。
そういう作品ですよね、これは。
→ 本当にそう思います。
ひき続き読み返しても違ってきますもの。
「だいじなものは 見えない」・・・いつの時代でも見ようとしないと何
も見えないのでしょうね。
流されないように、一律な考えににならないように・・・とはるかな星か
ら王子さまのッメッセージをこころしたいとおもいます。
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