★イソップ動物寓話の秘密 Part:2 |
01月15日 (土) |
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忘れてしまいそうなので、いまのうちに書きとめておきましょう。イソップのことでしたね。
イソップ、またはアイソーポス。その生涯についてはあまりはっきりしたことはわからないみたいです。ヘロドトスの『歴史』やアリストテレスの『弁論術』という古い文献のなかにわずかに登場するだけで、それによって推定すると、紀元前6世紀に生きたギリシア人とされています。紀元前6世紀のはじめのころ、ギリシアの東の端、トラキアで生まれたと。その説とは別に、小アジアのフリジア島が生地だとする人もいるようです。どちらも、貧しい羊飼いの家に生まれたとなっていて、黒人で、どうも顔はひどく醜く、そのうえどもりで、人とまともに向かい合って話をするなんてことはできなかったとか。そんなコンプレックスのかたまりのような男が、そののちエーゲ海の東の端にあるサモス島に渡り、奴隷として働いていた。ひどい扱いを受けたようですが、さまざまな苦難に耐え、ひたむきに努力をした。2番目に雇ってくれたご主人がわりかしわかった人で、イソップの天賦の才を見込んで奴隷の身から解放してくれた。自由の身になったイソップは、いつそんな能力を養っていたのか、大変身をして、アテネ、コリントなどギリシア各地を寓話を語りながら渡り歩きます。
中世ヨーロッパでは吟遊詩人という旅芸人がいて各地を遍歴していたことはご存知のとおり。その前身のような存在と考えていいのでしょうか。イソップは、どもりでまともに口のきけない奴隷から、寓話をつくって渡り歩く語り屋になったんですね。学校制度もととのっていない時代でした。子弟の教育は親がすべて負っていました。しかし、親の教育力には限界があります。だいたい教育という概念もなければ意識もありませんでした。そんな時代ですから、子どもの情操教育は語り屋が大きく担っていたんですね。語り屋であり教訓屋だったんです。このとき語られていたものをいまのわたしたちも享受しているというわけ。
それにしても、2500年以上も前に生きていた人。幾世代、いや、幾百世代、数えきれないほどの世代を貫いて、あの、ごく簡潔で、わかりやすい、しかしたいへん印象的な寓話をいっぱい、いっぱい語り、子どもたちを笑わせ、子どもたちの想像力を掻き立て、そのモラルを養い、生活の知恵をさずけてきたことを想うと、びっくりですよね。どうでしょうか、わたしたち自身、知らず識らずのうちに精神形成、モラル形成にこの寓話のおかげをこうむっているんじゃないでしょうか。その意味では、ひょっとすると、キリスト教、イスラム教、仏教、あるいは儒教や道教、そういったものよりもずっと深く人間のこころに根をはっているのかも知れません。違いますでしょうか。
道徳を説き、処世術を伝えて、古代ギリシアの青少年教育にあずかり、図りしれない真理を伝えてきたイソップ。イソップの寓話にはたくさんの動物たちが登場します。しかしこれは動物記ではありませんよね。ときには、動物に託して人間の性質や行動を痛烈に批判し風刺し否定する社会批判の要素を強く含みます。なんでそんなまわりくどいことを…。イソップの生きた時代は、ホメロスの時代よりは500年ほどこちらですが、まさにきびしい僭主政治のおこなわれていた時代です。正論をストレートに言えるような状況にはありませんでした。ほんとうに云いたいことを、人間でなく動物の性質を借りて婉曲に語るしかない時代。いやな時代ですねぇ。そんななか、イソップは語り屋として次第に認められ、人気を博していきます。となると、時の権力は黙っていません。体制に反するようなことをあちこちで吹き込まれてはたいへんですから。イソップもちょっと調子に乗りすぎたかも知れません。最期は、紀元前550年代、「神都」とされ、「大地のヘソ(オンファロス)」と呼ばれたデルフィで、あらぬ罪を着せられ、処刑されています。
ですから、イソップがありときりぎりす(アリとセミ)に託して伝えたかった本当のことは、なんだったのでしょうか。ありの勤勉さに学べ、浮かれて遊んでばかりいたら将来はないよ、と語っているだけではないような気がしませんか。イソップの真意は、わたしたちがいまの感覚でとらえるメッセージとはまたぜんぜん違うものだったかも知れませんよ。
もうひとつ知っておかねばならないのは、約400篇の寓話のすべてがイソップの語ったものではないということ。その後に別の人がつくったものもつぎつぎに吸収しつつだんだん形成されていったものなんですね。紀元前4世紀ごろからぼちぼち集成してみようかとの気運がおこり、紀元後1世紀にローマのファエドロスという人が体系化し、その後、ギリシアやローマではほそぼそと語り継がれていたようですが、一挙にこれが世界に広まったのは、印刷技術の起こった15世紀に入ってからでした。英・独・仏の訳本が出てからですね。日本に最初に紹介されたのは1593(文禄2) 年といいます。天草のイエズス会から出たローマ字本『イソポのハブラス』(天草本伊曾保物語)が最初 で、収録数は70篇。これは子どものためのものではなく、もともとは、渡来してくる宣教師たちに日本語を学ばせるための教化本でした。そのあと、明治にはいり、渡辺温、西村真次、福沢諭吉、上田萬年、巌谷小波らが訳して出し、さらに大正・昭和になって、平塚武二、浜田広介、坪田譲治、川端康成、また菊池寛、新島出らによって広く普及されました。
ラボの「ありときりぎりす」が上記のどれを下敷きにしてつくられているかは、みなさんが研究してみてください。わたしたちはイソップのこの遺産をどう引き継いでいったらいいのでしょうかねぇ。そのことも考えてみてください。
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Re:★イソップ動物寓話の秘密 Part:2(01月15日)
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サンサンさん (2005年01月15日 19時42分)
Part 1, Part 2と楽しく読ませていただきました。
なんだか、がのさんから直接お話を聞きたくなりました。
もっともっと、雑談風で良いので。。。
お食事しながらとか。
お茶しながらとか。
ぜひ、今度、地区のテューターと一緒に聴きたいと思います。
どうぞ、よろしくお願いします。
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Re:★イソップ動物寓話の秘密 Part:2(01月15日)
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Hiromi~さん (2005年01月16日 11時08分)
イソップ寓話は2500年も前からあったものですか。
イソップの物語は何故か教訓めいていてというのが印象でしたが、すごい影
響力があったんですね。
「ありとキリギリス」なんか、あえて教訓的にとらえたりしますが、ラボの
場合はあくまでも「テーマ活動」というベースの上に立っての解釈です。
先日も高活、「白雪姫」作者がグリム兄弟によるものという話から、このお
話は何をいいたいのだろう??君達は何を表現したいの???というところま
で、戻ってしまいました。
PARTY間の温度差がありすぎるこのごろです。
昨日も大学生が高活は年々ひどくなる!!なんて生意気な。でも事実です。送
り出しテューターの責任です。
やはり物語の根底にあるものは何かなどテューターとしては最低限わかって
おくべきだと思います。だも余り人数かかえると、Pをこなすだけでいっぱい
です。
”がのさんのページを見るだけでも随分勉強になるわよ”と薦めていますが
さていかがなものでしょうか。
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Re:★イソップ動物寓話の秘密 Part:2(01月15日)
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とんかつ姫さん (2005年01月16日 19時28分)
Hiromi~さんへ
Hiromiさん、ここで憂さ晴らししてて良いのかな(笑)?
高活を担当しているから、送り出しパーティの差はひしひしと感じま
す。
ゆっくりとキャパに合わせたラボッ子育てをしていくのが「誠実」であ
り、会費への礼儀ですね?
もし、載ったらですが、うちの地区の高活のちょっとしたことにも触れ
たいです、もちろんとんかつ姫のページで。
がのさんお邪魔しました(汗)。
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