★天平の風、久遠の微笑 |
02月26日 (土) |
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貧乏ヒマなしである。半ばやけくそで、きょうは上野へ行った。えっ? 花見! ちがいますよ、風は凍えるほどだし、花見にはまだ早いですよ。国立博物館平成館の「唐招提寺展」です。
1月には世田谷美術館の「吉野・熊野・高野の名宝」展(「紀伊山地の霊場と参詣道」世界遺産登録記念)で仏教美術と密教の世界にふれたり、平山郁夫の「平成の洛中洛外」図展で京都の寺社のたたずまいにふれたのにつづいてということで、どうも先があまりないということなのだろうか、やたらこういうものに心そそられる。あぶない、あぶない。
本来ならこういうものは、大都会の美術館や博物館で見るものではなく、それぞれの地に足をはこんで、その地の空気の流れと香りを全身に感じながらゆったりと鑑賞したいところだが、情けないことに、貧乏しているとそういう余裕がない。ま、仕方ないじゃないですか。
それに、今回は100年ぶりの唐招提寺金堂の大修理ということから、これまで寺外に持ち出すことなどなかった名宝を初めて、初めてですよ(!)、外で公開するという企画。なんといっても、1200年余にわたって日本の混迷の時代を見てきた古刹のご本尊。六塵の境によろよろつまずきながら生き、六根の罪を負って息たえだえに生きるこの小さな身にも、ひょっとしたらラッキーな光耀のおこぼれでも…、と、これまた卑しい魂胆を秘めて赴いたという次第。
じつは、もうひとつある。ほぼ1年前である。このホームページでお騒がせしましたね、横浜美術館での「東山魁夷展」のこと。あのときたいそうな感動をもって見た大作、唐招提寺御影堂の障壁画「濤聲」をふたたび見られるという。
これについては、鑑真和上のまします御影堂を再現しようとのさまざまな工夫努力にもかかわらず、ぜんぜんダメなんですね。砂に寄せては返す波の音はちっとも聞こえてこない。松の葉末をわたる風の音にひびきはない、潮の香もなく、マリンブルーのその世界に溶け込むことはできず、なんだかロボットの手ざわりで遠く引き剥がされたような感覚しか残らない。どうしてなのか。…だって、押すな、押すな、なんですよ。「とまらずにお進みください」との係員の声がヒステリックに繰り返されるという状況。これだからイヤになるね。
とはいえ、廬舎那佛(るしゃなぶつ)、高さ3メートル余のこの坐像(国宝)の、なんとももの静かな天平の笑みには、六根の罪に穢れるわが身も大きな愛で赦され、浄められる思いがする。鑑真和上の見えない目は、すぐ目のまえの利得しか見ようとしないわれら衆生の頑愚に「欲をすてなされ」と語りかけるかに、こころ澄んで崇高である。なんでこの中国の高僧は六度にわたる命がけの来朝を試みたのだろうか。日本という国は仏教にとってなんだったのだろうか。
廬舎那佛を中心に、帝釈天像、梵天像、それに四天王像と配してつくりなす天平の造形空間はこころの平和の祈りに満ちみちていた。それに、ご本尊を守護する四天王の持国天や増長天、あるいは多聞天や広目天にせよ、その後の時代に見るような恐ろしげな憤怒の表情はあまりなかったような気がする。乱れのない統一的な宇宙が悠久に見えた。3月6日まで。(好評につき2月28日の月曜も開館するとか)
この企画につづいて、3月8日から(4月17日まで)は奈良・中宮寺の菩薩半伽像が飛鳥の風をはこんで東京・上野にやってくるという。斑鳩の郷で微妙なアルカイックスマイルを見せるあの菩薩像です。和辻哲郎さんの『古寺巡礼』で日本美術の最高傑作と称えられた、有名な仏像ですよね。あの静かな、あまりにも静かな瞑想を想うだけで、「まずいな、こんな生きざまをしてちゃ」と、煩悩多きいまの自分のあり方を考えさせられる美しい造形に、また出会える、…かな?
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Re:★天平の風、久遠の微笑(02月26日)
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スミティさん (2005年02月27日 21時44分)
がのさん、いいなあ いいなあ
昨日BSで、その秘宝の運び出しの番組をやっていて、見逃して最後の
ほうになって気づいて、悔しい思いをしたところ。
2年前の春に奈良に行きました。薬師寺が落慶法要の前日でした。
唐招提寺は修理の真っ只中。
もう一度いきたいと思いました。
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Re:Re:★天平の風、久遠の微笑(02月26日)
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がのさん (2005年02月28日 14時19分)
スミティさん
>2年前の春に奈良に行きました。薬師寺が落慶法要の前日でした。
唐招提寺は修理の真っ只中。もう一度いきたいと思いました。
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行ってみたいですねぇ、古都・奈良。その斑鳩の郷、大和路、あるいは
万葉の郷。時間に縛られず、お財布のほうの心配にも縛られず、ゆ~っ
たりと歩いてみたい。なんといっても大和は国のまほろば。流れる血が
あちらに牽かれていきますよね。高校の修学旅行で行ったきりですが、
何の記憶もないんですね。車酔いで見学どころではなかったという悲惨
な記憶のみ。いつか、そのうち、チャンスがあったら、…といい加減な
約束を本多豊国さんとしたまま禅定寺にもまだ行っていない。そこには
彼の描いた大きな壁画があるはずなのですが。
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Re:Re:Re:★天平の風、久遠の微笑(02月26日)
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スミティさん (2005年03月01日 00時28分)
流れる血が
あちらに牽かれていきますよね。高校の修学旅行で行ったきりですが、
何の記憶もないんですね。車酔いで見学どころではなかったという悲惨
な記憶のみ。
☆私も中学校でいった時は何の記憶もありません。
本多豊国さんとしたまま禅定寺にもまだ行っていない。そこには
彼の描いた大きな壁画があるはずなのですが。
☆禅定寺?壁画?ワっ、知りません。どこらあたりですか?
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Re:Re:Re:Re:★天平の風、久遠の微笑(02月26日)
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がのさん (2005年03月02日 21時14分)
スミティさん
>☆禅定寺?壁画?ワっ、知りません。どこらあたりですか?
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どこらあたりか…、以前、詳細にわたる地図をもらっているはずなので
すが、どこにしまいこんでしまったか…。まずいですねぇ。反省。住所
は「京都市宇治田原町禅定寺」で、京都府とはなっていますが、奈良の
奥のほうと聞いています。この「大涅槃図」はたいへん評判の大壁画
で、縦が8メートル、横が45メートルという巨大なもの。2年の構想を
経て、京都市立芸大の学生さんの支援も得ながら4年がかりで制作、
1999年4月に完成したもの。ですから、ラボの「なよたけのかぐやひ
め」、そのあとの「チピヤクカムイ」「鮫どんとキジムナー」を描いて
もらっているころからその構想はあり、ときどき聞かせてもらってい
ました。機会がありましたらぜひ訪ねてくださいませんか。なお、本多
さんのホームページがありますのでのぞいてみてください。
http://www2.ocn.ne.jp/~dhona/
このごろはたくさんの絵本も出しておられますよ。とくに幼年絵本は評
判のようです。アメリカの各地を「墨絵ライブ」をしてまわったり、
Tepcoの「ひかり荘」でたのしいおしゃべりをしていますよね。ぜったい
手抜きをしない、しかしめっぽう楽しく仕事をする人です
★ごめんなさい、本多さんのホームページのアドレス、間違っていまし
た。上記の通りです(修正済み)。なお、それによりますと、禅定寺への
アクセスはJR奈良線宇治駅、または京阪宇治駅からバス(ただし、本数が
少ないためタクシー利用が便利)とあります。お詫びいたします。
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