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★和訳のむずかしさ,楽しさ 05月06日 (木)
なんでこれがこんなふうな訳になるのよ,違うでしょ!?
…原文(英文)と訳文とのあいだの乖離に疑問を感じたり,ときには反発を覚えたり――,
あなたにはそんなことはありませんか?
"wild things"がどうして「かいじゅうたち」になるのよ,
辞書をどう引いたってもそんな意味はないじゃないの! などと。
この活動に携わっているかぎり,みなさんがたえずぶつかる問題ではないでしょうか。
世界の名作文芸を素材にしているとはいえ,これは文学教育ではなく
大きくは「語学教育」の部類に入る活動ですから,
ここはどなたにも悩ましいところではないでしょうか。

rindoh-a.jpg

きょう,昼食をとりながらNHKテレビの連続ドラマを観た。
ときには観ることもあるドラマである。
その冒頭,主人公の〝天花〟ちゃんが仕事に失敗し,失恋もしたらしく,
夜おそく帰ってくる。その傷心の娘を父親が迎え,
花月夜のなか,(あまり,らしくないが)詩を吟ずる。
溺愛する娘の憂愁をいたわろうとする父親の,不器用だがまっすぐな気持ちを
この詩篇に託して…。その一部は,
   ハナニアラシノ タトヘモアルゾ
   〝サヨナラ〟ダケガ 人生ダ
というもの。なにかの拍子にひょいと口から飛び出すこともあることば。
これまでこれは井伏鱒二のオリジナルな詩とばかり思ってきた。
この前後はどんな文章だったかな,と,さきほど本棚をかきまわし,
ようやく探し出して,改めて見てみると,
于武陵(うぶりょう)という中国の詩人の漢詩を訳したものとわかった。
その部分はこうなっている。
   花発多風雨
   人生足別離
これをどう読み下すのか,さまざまな考え方があろうかと思うが,
さて,これを和訳するとして,ふつう「花に嵐の譬えもあるぞ…」となるだろうか。
「サヨナラだけが人生だ」となるだろうか。
わたしにはとてもそんなふうに書く勇気はない,……というか,
そういう発想がどこから湧き出すのか及びもつかない。しかし,
井伏鱒二のこの訳文は原文をはるかに超えて,
わたしの胸にストンと嵌まってしまうのはなぜか。
(漢詩については無知というに近いですが,もとの漢詩は
じつはそれほどすぐれた作ではないのかも知れない)
もう,文句ない心地よさで胸におさまってしまうから,どうしようもない。
なぜだろう。それがすぐれた文学の特性というものなのか。
魂の事実,魂のありどころを簡素なことばでピタリ言いあてている。
そこには無用な飾りも衒気もない。
井伏という一人の人間の,生きるたたずまいとしかいいようのない
ところから生み出されたことばなのかも知れない。
それはもう,全的に受け取るしかないのではないか。
          ☆
井伏鱒二といえば,「山椒魚」を知らない人はいないでしょう。
あの,一種剽げたような,しかし,やりきれない存在の寂しさ悲しさをたたえた世界と
この詩はどこかで一脈通じているようにも思えてくる。
ほかにも「岬の風景」「へんろう宿」など,いい作品があり,
わたしはこの古風な,読み方によっては狷介ともされるこの人の作品が
ふしぎに大好きなのである。日本短篇小説中の白眉にも数えている。
どれも,今出来の商売くさい流行小説とはまったく違う。
違いすぎるほど違うので,ぜったいにベストセラーなどになることはない,地味な作。
しかしそれらは,ほんとうのホンモノにふれたときの安心感と悦びを与えてくれる。
          ☆
井伏鱒二のこの訳文を見て,「ちょっとそれ,誤訳なんじゃないですか」,
…なんて文句をいう気には,わたしはなれない。あなたはどうですか?
この人がその存在をかけて生み出した固有の世界を,ただただ愉しませてもらうだけで十分だ。
けれど,どうでしょうか,ラボの活動のなかでこの種の問題に突きあたったとき,
現実,あなたはどう対処していくのでしょうか。
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