世界に発信する英語の礎

伊藤 率紀

歯科医師。
医療法人一歩会 伊藤矯正歯科医院院長(岐阜県可児市)。

 

 私は名古屋の林恭子パーティで中学2年から7年間ほどラボ・パーティにお世話になりました。今回の寄稿を機会にラボといまの自分の関係を考え直してみて,私はふたつの大きな贈り物をラボからいただいたことがあらためてわかりました。

いまでも役に立っている英語の力

 ひとつめは,ラボの活動を通じて身についた相当に大きな英語能力です。私がラボを始めた頃は先輩の指示に従うばかりで消極的でしたが,数年もすると先輩にならってまとめ役を引き受け,テーマ活動でナレーションをよくやったことを覚えています。われわれの時代の英語教育は“This is a pen.”で始まり,当時は「読み(文章題)」と「書き」が中心でした。したがってもしラボをやってなかったら,たくさんの英語を「話す」機会はなかったでしょう。ラボで多くの英語を口から出したことが,今日私が英語を話すときに大いに役立っていると思います。

 たとえば『Romio & Juliet(ロミオとジュリエット)』のセリフに”Not on purpose, but I did.(わざとじゃねえよ。ちょいとさわっただけだい)"がありました。そのセリフは相手役の肩に「わざと」ぶつかりながら”Not on purpose…”とことばのやり取りをしたのですが,そんなふうにラボの英語には学校の教科書にでてこないリズムや躍動感があって,私が英語を話す際の生き生きした表現につながっています。またラボ・ライブラリーから聞こえてくるナレーションの速さに合わせて,英語を速く話した経験はもっといまの英語の発話に役に立っているのです。

ラボっ子時代(左から4番目)
ラボっ子時代(左から4番目)

口腔機能から見た英語の発話

 私は歯科医師をしておりますが,虫歯の減った今日,歯科界は新たなマーケット開拓の意味もあって「口腔機能改善」をよくアピールしています。そのため口腔機能のひとつである「発話」時の口腔周囲組織の動画(https://youtu.be/Z8yysjQeYT4)を観る機会があったのですが,そこで映し出されたネイティブ・スピーカーが英語を話すときの舌,下顎そして唇の動きは信じられないほど活発なものでした。したがって余程これらの器官をことばに合わせて動かすことに慣れていないと,たとえ頭のなかで英文法を駆使して話そうとしても英語をうまく話せないと思います。つまりラボで英語をたくさん話した経験は,今日私のこれらの器官の動きを滑らかにし,英語の発話に役立っているのです。

人生を生き抜くのにたいせつなこと

 さてもうひとつのラボからの贈り物は,人との交流です。ラボでは年齢不問のグループ活動で幼児から大学生まで同じように活動するので,テューターのみならず素晴らしい先輩や後輩に出会い,人生を生き抜くうえでのたいせつなことを無意識のうちに教えてもらったと思います。とくに私がラボを始めて1年が経過した頃(1975年),パーティの先輩たちが4Hクラブ(※1)のシャペロンに日本の若者の青春を紹介したいと『野菊の墓』(伊藤左千夫作)の翻訳をテーマ活動化するといいだし,ぼくが音楽を担当したことがありました。夏休み中,パソコンのない当時,英文タイプで打ちだした脚本を英語,日本語で読んだり聞いたりしながら,ふさわしい音楽探しをしたことは忘れられない思い出のひとつです。国際交流といえば,高校2年生のときにアイダホ州からMatt Kellyくんを受け入れました。この経験は私が後に歯列矯正の国際学会を企画する際,外国人に対して抵抗と偏見をもたずにいた大きなきっかけになっています。

歯列矯正技術を世界に広める

 さて私は歯列矯正を専門に開業している医院の院長をしています。ただ私の実践している矯正法は歯の表側に貼り付ける装置を使う一般的な方法とは違い,ほとんど痛みがなく,また虫歯になることもほとんどない,非常に安全で健康的な矯正なのです。詳しくは当院のHP(http://slaorthito.com/)でご覧いただきたいのですが,この方法は亡き私の師匠よって開発された歯の裏側の装置を主体とする治療法で,外から見えないとてもよい治療法ですが,まだまだマイナーな治療法です。しかし私が師匠から学び約30年にわたって臨床応用した結果,ほとんどの症例で良好な結果がでることがわかってきました。そしてそれについて発表したり講義したりするなかで共鳴してくれる歯科関係者に出会い,4年前には全国的な研究会が発足されるところまで発展してきました。また2007年には方向性を同じくする国際的なグループ(http://www.ifuna.info/links.html)が立ち上がり,その国際会議では私も発足当時からほぼ毎年発表するとともに,2012年には岩手県平泉での開催の実行委員長まで務めました。

患者さんとともに。矯正装置がまったく見えず,痛みもないので安心の笑顔
患者さんとともに。
矯正装置がまったく見えず,痛みもないので安心の笑顔

社会人として使う英語

 開業医として矯正歯科と関わっていくなかで英語が徐々に大きな役割を果たすようになり,いまでは日本で普及し始めたこの治療法を世界中に広めるため,英語のステップ・アップにチャレンジしています。ただ私は英語圏で暮らした経験がなく,英語の発表では原稿から目を離せませんが,診療のかたわら英語を学び,目標のTOEIC900点にようやく届きそうになってきました。

 大学を卒業してから英会話教室に通い始めオーラルの英語に再び向きあい,31歳で開業するときには生きる姿勢が真剣になるとともに,英語に対する取りくみも変わりました。ヒアリング力を高めるために,再度ラボのライブラリーを聞くことから始めたいへんな努力が必要でした。一方で英語に関する本も読み漁り,なかでもマーク・ピーターセン先生の『日本人の英語』シリーズには感動しました。またお決まりのビジネスやニュース英語にチャレンジしましたが,これらはボキャブラリーを増やすにはいいのですが,生き生きとした会話には不向きでした。

 実際に国際会議や海外での講演に出席し,実際に英語を使用するようになって次のようなことがわかってきました。英語には(おそらくどんな言語も)固い場面に適するものからカジュアルな会話まで場面に適した表現がさまざまあり,それらは使える場面や対象者も違ってくるということです。とくに社会人としてそれを知らずに間違った英語を話してしまうと,ネイティブ・スピーカーを傷つける可能性もあるsensitiveなものです。たとえばアメリカ人というと自己主張が強くズバズバものをいうようですが,状況によってはかなりていねいな話し方もしており,実際"Mind your P’s and Q’s.”(PとQに注意=言動に注意しなさい)と,状況をみて"Excuse me.”や"Please.”をしっかりと使うようにと戒める諺もあります。ですからカジュアルなときは会話を楽しみながらも,ていねいなことばが必要なときもあることを忘れないようにしたいものです。

 最後にラボっ子にメッセージです。ここまでいろいろ述べてきましたがまずは失敗を恐れず,どんどん英語を話しましょう!
 そして私のように海外生活経験のない場合もラボを中心にさまざまな英語を学習していけば,きっと上達するはずです。私も最後には”TED Talks”(※2)のように原稿を持たず,発表できるようがんばりたいと思います。


※1 4Hクラブ …… アメリカ農務省と州立大学が管轄指導する青少年育成団体。ラボ国際交流では4Hクラブと,1972年から相互ホームステイ交流を行っている。

※2 ”TED Talks” …… カナダのバンクーバーで毎年行われる、起業家や研究者など時代をリードする人びとがするプレゼンテーションを,ネット配信しているもの。

お話を伺った方

伊藤 率紀(いとう りつき)

 1960年,愛知県生まれ。歯科医師。
 医療法人一歩会 伊藤矯正歯科医院院長(岐阜県可児市)。

愛知県・林 恭子パーティOB