自分ひとりではできないことを
どう解決するか

渡辺 玲央

開発コンサルタント

仲間と経験したラボ活動で身につけたこと

 私は小学2年生から高校3年生まで松山市の標葉パーティで活動していました。
 多くのテーマ活動を仲間としたことが思い出に残っています。私が初めて高校生グループに入った際に取り組んだお話が『ドン・キホーテ』でした。高校生グループでは徹底的にセリフの意味や登場人物の心情などを議論して,全身を使って表現しており,はじめての私にはとても刺激的でした。ときには議論が煮詰まってまったく進まないときもありましたが,徐々にグループで物語のテーマを共有し,それを指先まで神経を行き渡らせて表現していく快感を覚えました。
 『なよたけのかぐやひめ』では,かぐやひめはなぜ5人の貴公子の求婚を断ったのか,なにを求めていたのかを何度も議論したことをいまでも覚えています。ときには原作の『竹取物語』を読んで話しあったこともありました。これらのテーマ活動を通して,みんなで悩み,議論することではじめてわかる物語の深さがあることを知りました。
 またセリフやナレーションを耳で聞いて覚えていたことで,英語の音を聞き,その音を真似する力がつきました。お話にでてきた英語のフレーズは感情を込めて言うことができ,たとえば,『オバケのQ太郎』ででてくる"Again?(またぁ?)"というフレーズは,気持ちを抑えずに言えないくらいです。
 テーマ活動を何度も経験したことによって,自分の気持ちや伝えたいメッセージを英語で伝えやすくなったと思います。テーマ活動で,自分たちなりに解釈したテーマや登場人物の気持ちがあり,それを英語(セリフやナレーション)にのせていたので,単にCDから聞こえてくる音声のリピートではなく,自分の気持ちを英語にのせるということが身近かになったと思います。
 また標葉パーティでは,一泊二日のファミリーキャンプを毎年ゴールデンウィークに開催します。中高生のラボっ子が中心となって,テーマ活動やキャンプファイヤー,きもだめしなどのプログラムを考えたり,案内チラシを作成したり,キャンプ当日の進行をしたりしました。中学生のときにはキャンプ備品の作成をするぐらいでしたが,高校生になるとお金の計算をするなど,より大きな責任が生まれます。いま思うと「よくそこまで任せてくれたな」と思いますが,仲間とともにキャンプを作りあげたという達成感はいまでも覚えています。

幼いときから仲間と共に,さまざまなことを経験してきた(左から4番目が筆者)
幼いときから仲間と共に,さまざまなことを経験してきた(左から4番目が筆者)

わからないことに素直になり,人に助けを求める

 高校2年生時,私はアメリカ・ミシガン州の高校に留学しました。最初は授業の内容や日常生活でもわからないことだらけでした。そして,わからないことがあるたびに,先生や友だち,ホストファミリーに質問し,教えてもらっていました。この留学の経験で自分でなにが理解できないかを認識し,わからないことはだれかに聞くという姿勢が身についたと思います。
 2007年当時のミシガン州では乾電池を分別せず,他のゴミといっしょに捨てている実態を知り驚愕しました。ちょうどその頃,地球温暖化の深刻な影響を記した『不都合な真実』(アル・ゴア著)が話題になっていて,私は環境問題に興味をもつようになり,大学では環境経済学を学びました。
 大学院では,減少が著しいインドネシアの熱帯雨林に住む先住民の生活や,先住民による薬草などの自然資源の利用について研究しました。先住民の家にホームステイさせていただき,計8か月間生活をともにしたのですが,インドネシア語もままならない私にインドネシア語や薬草の利用の仕方を教えてくれ,ホストファミリーにはほんとうにお世話になりました。ここでも留学時代の経験が生き,わからないことを一つ一つ周囲に聞き,疑問を解決していきました。

高校留学での卒業式(アメリカ・ミシガン州)
高校留学での卒業式(アメリカ・ミシガン州)

はじめて訪れる国での仕事

 現在,私は開発コンサルタントとして働いています。開発コンサルタントとは,おもに開発途上国で道路などのインフラ整備や,農村開発,保健・医療,環境保全などのプロジェクトを実施する職業です。そのなかでも私は,森林保全や再生可能エネルギーの普及など,環境分野のプロジェクトに従事しています。
 これまで従事したプロジェクトの一例として,南部アフリカ地域に位置するボツワナ国での「国家森林モニタリングシステム強化プロジェクト」があります。私はボツワナの自然資源を持続的に利用するための,地域住民を対象としたワークショップを実施したり,ワークショップ参加者と共に自然資源を管理するための地図を作成したりしました。
 私にとってははじめてのアフリカへの渡航であり,ボツワナの文化や価値観,政策,制度等全てが新しいことでした。私の修士課程の研究対象地域であったインドネシアとは異なり,サヴァンナが広がり木がまばらに生えている地域でどのような自然資源管理方法があるのか分からないことはたくさんありましたが,自分で勉強しても分からないことについては周囲の人に質問をするなどして解決していきました。

多様な文化をもつ人々とのコミュニケーション

 私は日常会話程度のインドネシア語は話せるのでインドネシアでは,インドネシア語でコミュニケーションしますが,まだまだわからない言葉や言い回しなどもたくさんあります。相手と話していてわからない言葉や言い回しが出てきたときは,前後の文脈や相手の表情,しぐさから意味を推測しています。それでもわからなければ,直接相手に聞きますが,聞くタイミングを見計らうことも大切です。また相手との会話で出てきた重要な言葉は,その会話の中で覚えたり,使ったりするようにします。そのほうが相手とその言葉の重要性を共有できているような気がしますし,次回の会話でその言葉を使うことによってよりスムーズに会話が進むことがあります。
 ボツワナのスーパーでのことです。お肉をかごに入れレジに行くと,レジの担当者から「この肉はだれと食べるんだ」と聞かれ,「これはひとりで食べるんだ」と伝えると,「なぜ私がそこにいないんだ」と真剣な顔で言われたことがあります。冗談なのか,なにかの訴えなのかその場ではわかりませんでした。このように私からすると意外なことを,真剣な顔で言われることが何回かありました。どんな小さなことでも,相手が何か納得していないような印象を受けた場合はボツワナ人の友だちに相談してみます。自分に都合の良い解釈だけでなく,自分にとって不都合だったり意外だったりする解釈も常に考慮しないと,相手と理解のギャップが出てしまうと思います。

相手を知ることが重要

 海外で仕事をする際には,相手の状況を理解することが大切だと思います。開発コンサルタントはJICAなどからの発注に基づき現地で仕事をするのですが,日本で聞いていた現地の状況やニーズと,現地に行ってわかる状況はかならずしも一致しないことがあります。そのようなときには相手が置かれている状況をていねいに聞き,理解することが必要です。相手もこちらに気を使ってすぐに率直に考えを伝えない場合もあり,ことば通りに理解するのではなく,相手の表情や話し方など,細かいところにもアンテナを張って「あれ,何か変だな」と気づくことが必要です。そのうえで自分なりに現状を把握し,相手に対する理解を深めていくことが重要だと思っています。
 これからもわからないことや解決できないことに多く出会うと思います。なにが自分は理解できているのか,何が自分でできるのかを認識したうえで,周囲に助けを求め,協力しながら感謝を忘れず,生きていければと思います。

インドネシアで現地の人々から聞き取りを行う
インドネシアで現地の人々から聞き取りを行う

お話を伺った方

渡辺 玲央(わたなべ れお)

 1989年,愛媛県生まれ。株式会社オリエンタルコンサルタンツグローバル勤務。
国際協力機構(Japan International Cooperation Agency : JICA)や日本政府,日本企業などからの依頼を受けて,重荷発展途上国の森林保全や再生可能エネルギー普及分野のプロジェクトに携わる。

愛媛県・標葉直美パーティ