
子育ては絵本とともに(その1)
佐々木 宏子(ささき ひろこ)
鳴門教育大学名誉教授,前絵本学会会長,博士(教育学)

子育て中のお母さん,お父さん,家族にとって,子どもの成長はかけがえのない喜びです。けれども,その道のりは迷いや悩みの連続であるでしょう。「子どもにとって本当にたいせつなことは何だろう」と思うとき,この冊子がみなさんの考えを深める手がかりとなることを願って刊行いたしました。
現代の社会では,さまざまな視聴覚をとおしての刺激が子どものまわりに氾濫しています。その代表格,テレビが子どもの発達へ与える影響については,これまで心理学者などによって指摘されてきました。
絵本の魅力は,その話や絵の内容はさることながら,「読んでくれる人」との人間的交流にあります。大好きな人に絵本を読んでもらい,その内容について話をすることは,子どもにとってもおとなにとっても至福のときとなるでしょう。
今回は絵本と子どもを研究されている佐々木宏子先生に,2冊の絵本を例にして,絵本作家が絵本にこめる思いについてうかがいました。さぁ,お子さんといっしょに絵本をひらきましょう。絵本タイムのはじまりです。
手ばなせないものをもっていますか?
ずっと読みつがれている絵本
「ちいさいおうち」(バージニア・リー・バートン 文と絵/
石井桃子 訳/岩波書店)
『ちいさいおうち』(バージニア・リー・バートン(※注1)文と絵/石井桃子訳/岩波書店)は,もうすでに読んでいる方も多いことでしょう。この絵本はアメリカで1942年に出版されています。日本では小型の絵本が1954年に出版され,1965年には大型本も刊行されて,現在までずっと多くの読者に読みつがれてきました。
すぐれた絵本は,一度読むとそれで終わるものではなく,子どもの成長や発達とともに,いろいろな顔を見せてくれます。この絵本のなかで,ちいさいおうちをじょうぶにたてた人は「どんなにたくさん おかねをくれるといわれても,このいえを うることはできないぞ。わたしたちの まごのまごの そのまた まごのときまで,このいえは,きっと りっぱに たっているだろう。」(P.1)と,語っています。
未来に立派に残るものは建物などの大きなものだけではありません。私は,この『ちいさいおうち』の絵本も,孫の孫のそのまた孫まで読みつがれてゆく作品なのだと思います。まだ,コンピューターも携帯電話もなく,月にロケットが到着するよりずっと前につくられたこの絵本が,なぜこんなにも時代をこえて読みつがれているのでしょうか。よく,私たちはひと昔前の電気製品や常識に対して「もう時代遅れだ」とか,「そんな古いことはいまどき通用しないよ」などといいますが,そんなことはないのだということを『ちいさいおうち』は,私たちに教えてくれます。
めくることをうながす
画面のつかいかた
「かいじゅうたちのいるところ」(モーリス・センダック 著/ラボライブラリーGT19)
いなかの静かな丘の上にたっているちいさいおうちは,春にはリンゴの花にかこまれ,夏にはヒナギクの花でまっ白になります。春夏秋冬の自然の変化のようすは,まことに美しく描かれており,私はとくにすぐれていると思うのは,文章も曲線を描いてレイアウトされ,絵のなかの一部として組みこまれていることです。
街が時代とともに人工的な直線や自動車,高いビルなどでうめられ広がりはじめるようすは,見開き画面の絵画の部分を拡大する方法により,とても効果的に表現されています。モーリス・センダック(※注2)の『かいじゅうたちのいるところ』(神宮輝夫訳/冨山房)でも,主人公のマックスの空想の広がりが,画面の連続的拡大を使って表現してある(※注3)ことでよく注目されますが,バージニア・リー・バートンはこのような創造的表現をいち早くとり入れた絵本作家だと考えられます。
※注3 とじこめられたマックスの空想がひろがって,とうとう部屋は森になってしまいました。ページのなかのイラストの部分がページをめくるごとにだんだんと大きくなっていきます。
















