
「原始の子ども」が輝くとき(その2)
本多 豊國(ほんだ とよくに)
画家,墨絵アーティスト
墨絵の心を世界に

子どもは子どもであって,小さなおとなではありません。おとなはもともと子どもで,大きくなった子どもです。おとなとは子どもが社会に馴染んでいくために,自分のなかの野生(生命力や想像力などのエネルギィ)を失ってしまった,衰えた子どもかもしれません。しかしおとなのなかにも,「小さな子ども」はいます。ピュアな力のみなぎった,「子ども」がいます。子ども自身とおとなのなかの子どもを,ぼくは「原始の子ども」と呼んでいます。
おとなは絵がわからないとか,絵は役に立たないなどといってしまいます。「原始の子ども」は,損得なしに全身全霊でお絵かきを楽しみ,遊びます。表現だとか芸術だとか思わずに,想像力そのものになって描いています。それは根源的なエネルギィで,人びとを慰め,力を与えてくれます。「原始の子ども」と心はひとつに繋がっているように思えます。「原始の子ども」は,「わかること」とか「役に立つこと」とは無縁です。
アジアのやさしい心と自然の「物語」を描きたいと願って「アジアン・シリーズ」を描き続けています。また,墨絵の心をもって,日本・アジアから世界を広げて描いていきたいと思い,アメリカ50州を描く「USA50」の旅を続けています。いま,10年間をかけて12州を巡りました。西から東へ,やっとロッキー山脈を越えたところです。たくさんの出会い,交流を深めながらスケッチの旅を続けています。
墨絵の心を伝え,その魅力を知ってもらうために,「墨絵ライブ」というパフォーマンスも続けています。大勢の人びとの前で,大画面に即興で墨絵を描くというもので,これまでにアメリカで10か所,日本で20か所以上で催しました。シアトルでの講演のとき,キングサイズのシーツに描いたのが始まりでした。講演やワークショップも行なっていて,墨絵の楽しさを味わってもらっています。ぼくのホームページでも墨絵の魅力を楽しんでください。

「USA 50」全米をまわってアメリカを描く

「墨絵ライブ」はダイナミックに
■本多豊國 公式サイト https://www.nekomachi.com/
絵本が大好き
もうひとつ,ぼくにはたいせつな仕事があります。それは「絵本」です。ぼくは子どもの頃から絵本が大好きで,いつか自分でも絵本を描いてみたいとずっと思っていました。いまでも絵本を見ると幸せな気分になります。ヤーノシュ『おばけリンゴ』,センダック『かいじゅうたちのいるところ』,そしてなによりも好きな,オルセン『キオスクおばさんのひみつ』。もっともっとたくさんの絵本がいまもぼくを楽しませ,励まし,夢の力を与えてくれます。そうして,ぼくはこれまでに約20冊の絵本を出版し,フランスやイタリア,スロヴァキアやユーゴスラヴィアでグランプリをとったり,入選したりしました。『なよたけのかぐやひめ』はブラチスラヴァ国際絵本原画展での特別招待個展で展示されたこともあります。ラボからは『なよたけのかぐやひめ』と『チピヤクカムイ』,それから『鮫どんとキジムナー』の絵を依頼され,提供してきました。そして昨冬刊行されたラボ・ライブラリーには,『ももたろう』と『かさじぞう』を描きました。
『かさじぞう』と『ももたろう』を描く

ラボ・ライブラリー『かさじぞう』
『かさじぞう』は墨彩画ですが,ぼくのお気に入りの作品のひとつになりました。だいたいぼくは,元気でにぎやかな作品が多いのですが,この物語はとても静かなお話です。ぼくにはこの「静かさ」をだすのがひと苦労なのです。でも,今回は大成功しているのではないかと思っています。
また,『ももたろう』は木版刷りに彩色をして制作しました。見てもらえればわかりますが,着物の中や山の中などに,隠し絵のようにいろいろなものを描き込んでいます。どんどん細かく彫り込んでいるうちに,約6か月もかかってしまいました。その間,両手とも彫刻刀がケガをしたり,板を押さえたり,彫刻刀で同じところを酷使したりするので,マメだのタコだのがたくさんできました。とくに板を押さえていた左手の小指のマメは,いまも治っていません。小さくプクっと膨れているマメを見るたびに,この中に「ももたろう」がいるんだなと思って,笑ってしまいます。桃から生まれたももたろうが,いまはぼくの小指の中にいる。そして力を与えてくれている。うれしくて楽しくなります。ラボの絵本にのって,みなさんの所へ行っている。もっとうれしくなります。
これからもどんどんいい絵本をつくっていきます。お楽しみに。

ラボ・ライブラリー『ももたろう』
















