
国際キャンプ会議とラボ
師岡 文男
(もろおか ふみお)
1954年東京都生まれ。筑波大学大学院体育研究科(野外教育学専修)修了。上智大学名誉教授(文学部保健体育研究室)。
1987年国際キャンプ連盟(ICF)設立に参画し,2000年には第5回国際キャンプ会議を 日本に招致,組織委員会事務局長とICF運営委員を務めた。
2004年にはアジア・キャンプ連盟(ACF)の設立を実現させ,初代事務局長に選出され た。2008年にはアジア・オセアニア・キャンプ連盟(AOCF)会長・ICF運営委員に選出。
(一財)ラボ国際交流センター理事。
2011年は,世界で最初の青少年教育を目的にした組織キャンプがアメリカのコネチカット州のGunnery Schoolで始まってから150周年の年でした。ちなみに,日本で最初の教育的組織キャンプは,今から105年前の1907(明治40)年7月21日から3週間,神奈川県片瀬海岸で行なわれた学習院遊泳演習で陸軍大将の乃木希典学習院初等中等科院長の発案で行なわれたテント生活であり,この年は奇しくも,イギリスでバーデンパウエル卿がボーイスカウトを創設した年でもあります。

このように,ラボが1966年から外国語教育と共に積極的に取り組んできた組織キャンプには長い歴史があり,いまや世界中に普及し,自然に対する理解とともに,人間に対する理解を深める重要な国際的教育活動となっています。世界各国の組織キャンプの指導者たちが集まり,交流し,情報交換をし,研修する機会として始まったのが国際キャンプ会議(ICC)で,私はその主催団体,国際キャンプ連盟(ICF)の創立に関わりました。第1回ICCは1983年にカナダのトロントで始まり,第2回は1987年アメリカのワシントン,第3回は1994年に再びカナダのトロント,第4回1997年ロシアのサンクトペテルスブルク,第5回2000年日本の東京,第6回2003年オーストラリアのメルボルン,第7回2005年メキシコのメキシコシティー,第8回2008年カナダのケベックと回を重ねてきましたが,私は第5回会議を東京に招致し,組織委員会事務局長を務めました。また,第6回会議の際,私はアジア・キャンプ連盟(ACF:2007年にアジア・オセアニア・キャンプ連盟<AOCF>に改称)を創立することを提案,2004年にモンゴルのウランバートルでACF設立式典を行ない,第1回アジア・キャンプ会議(ACC:2007年にアジア・オセアニア・キャンプ会議<AOCC>に改称)を開催しました。ACCは,ICCが開催されない年の開催を原則とし,第2回は2006年にマレーシアのぺラ,第3回は2009年に台湾の台北で開催してきました。第4回AOCCはICCの開催地が見つからなかったため,第9回ICCと合同で,2011年11月4日~7日の4日間香港で開催されました。
ラボと私の出会いは,この第5回国際キャンプ会議を東京で開催する際,協力をお願いし,ラボ・テューターや大学生コーチ,ラボ・スタッフがワークショップや通訳に大活躍してくださったことに始まります。その後の会議にもラボは毎回必ず参加者を派遣し,ラボのキャンプ活動についての口頭発表やワークショップ発表を積極的に行なって世界中から関心が寄せられています。今回は,東日本大震災のために夏のキャンプ活動ができなかったラボ東北支部の大学生4名と事務局2名の計6名が参加しました。


日本キャンプ協会の金山事務局員のグリーフ・キャンプについての発表の中でのラボ・メンバーによる東日本大震災の被災と復旧・復興に立ちあがるまでの涙ながらの体験談に対しては,会場全員がスタンディング・オベーションで拍手を送ってくれました。また会議期間中,一昨年にロープコースの設計施工と野外活動指導者研修会のため,長野県黒姫高原のラボ教育センターキャンプ場(ラボランドくろひめ)を訪れたジム・ケイン氏のワークショップも行なわれ,さすが体験教育とチームワーク育成の第一人者だけあって多くの参加者を魅了していました。
なお,ケイン氏等の新しいチームワーク育成プログラム「ラクーン・サークル(Raccoon Circles)」の解説書『The Revised & Expanded Book of Raccoon Circles』の翻訳本は,ラボ教育センターから出版されています。ちなみに「ラクーン・サークル」とは,ウェビング(webbing)と呼ばれる幅約2.5cm・長さ約4.5mのナイロン製のテープを使って行なうグループワークの総称で,永年アメリカの野外教育や体験教育の現場で使われ,近年世界各国に広がりつつあります。この本には50種類の活動が紹介されており,ラボ教育センターのスタッフのわかりやすい翻訳と(社)日本キャンプ協会国際交流委員会の監修により,わかりやすく,すぐに実践できるガイドブックとして仕上げられています。
学士力の筆頭に「コミュニケイション・スキル」が掲げられるいま,言語と非言語,バーバルとノン・バーバル両方のコミュニケイション手段を磨ける外国語とキャンプの両方の活動を融合し,積極的に続けてきたラボの先見性にはいまさらながら感心させられました。そして,何といっても「他者のために」「他者とともに」生きる力を実体験で学べるキャンプ活動を推進してMen and Women for Others, with Others の育成にこれからも邁進してくださることを期待しています。

※2012年1月の寄稿の再掲載です。
















