
ラボでの経験を活かして,途上国との橋渡し,
被災地の支援をしていきたい
高津 玉枝(たかつ たまえ)
株式会社福市 代表取締役。
一般社団法人 フェアトレード・フォーラム理事。
小学校4年のときにラボ・パーティに入会。
1973年,中学1年でラボ国際交流に参加。高校時代は黒姫,高梁,産山などでラボ・キャンプにシニアメイト(キャンプ・リーダー)として参画。
06年にフェアトレードを中心とした事業を行う株式会社福市を設立。08年フェアトレードのセレクトショップLove&senseを出店。
3.11の東日本大震災後にフェアトレードの考えをベースに,手仕事で東北を支援するプロジェクト「EAST LOOP」を立ち上げ、経済産業省のソーシャルビジネスケースブックにも取り上げられた。
フェアトレードの仕事を支える,
「外国の知らない人とでもすぐに仲良くなれる力」
「フェアトレード」ということばをご存知でしょうか? 途上国の弱い立場にある人たちと公正な貿易をしてサポートしていく仕組みのことです。私は大学を卒業し,会社勤務を経て,マーケティングの会社を興しました。仕事を続けるなか,安いものばかりが売られることに疑問を感じたときにフェアトレードという概念に出会い,2006年に会社を設立しました。始めたばかりのときは,ほとんどの人が知らない状態でしたが,最近はセンター試験の問題にも出たりして少しずつ認知度があがってきました。そんな追い風もあって,2012年に阪急百貨店のうめだ本店にフェアトレードのセレクトショップ「Love&sense」を出店しました。
扱っている商品はブラジル・コロンビア・ベトナム・カンボジア・ブルキナファソ等から仕入れたバッグやスカーフ,アクセサリーなどの服飾雑貨が中心です。「途上国に知り合いがいるのですか?」「どうやって取引をはじめたのですか?」とよく聞かれますが,最初から知り合いなどいません。でも大丈夫なのです。私には外国人であっても,知らない人とすぐに仲良くなれる力がありますから。
フェアトレードのセレクトショップ「Love&sense」の商品。
リサイクルのプルタブを編んで作られている。
毎日泳ぎ,友だちをたくさんつくり,
真っ黒に日焼けしたラボ国際交流
母親がラボ・テューターをはじめたのと同時に,小学校4年生からラボに入会し,中学1年のとき(1973年)に,ラボ国際交流でアメリカにホームステイに行きました。水泳が好きだったので,ステイ先の希望にそう書いたからでしょうか,ホストファミリーは水泳一家でした。朝からプールへ,戻って朝食,少し休んでから午後にも練習,そして夜にも友人の家のプールに泳ぎに連れていかれました。ほとんど毎日,洋服の代わりに水着を着て過ごしていました。「eatって食べるっていう意味なんだ」とアメリカで覚えたぐらいですから英語は,ほとんど理解できていなかったと思います。そんな日々でしたが,最後には地域の水泳大会にも出場させてもらい,友だちをたくさん作って,真っ黒に日焼けして帰国しました。大学4年の時,再びホストファミリーを訪ねた時に,お母さんから「あなたは,口のきけない子だと思っていたのよ」と言われ,唖然としましたが。
でも,この経験があるから,私は海外に行くことにほとんど抵抗がありませんし,初めての人たちと(たとえ言葉が通じなくても)友だちになることができるのだと思います。
1973年,中学1年でラボ国際交流に参加。アメリカで1か月ホームステイする。
中学1年の夏,ホームステイ中の写真。毎日泳ぎ,真っ黒になって帰国した。
東北支援プロジェクト
EAST LOOPを設立
仕事をしているといろんなことが起こります。2011年3月11日に東日本大震災が起こった時は,まさにフェアトレードに取り組もうと思っていた矢先でした。私は阪神淡路大震災で被災した経験があったので,しばらく精神的にも不安定な状態でした。なんとか平常心が戻った時に,被災地のために何かできないかと考え,フェアトレードのように被災した人たちに商品を作ってもらって,それを販売することで収入につなげ,元気を届けたい,そんなプロジェクトを立ち上げようと決めました。4月にさっそく被災地に入り,取り組みを説明したところ「君は,被災者に仕事をさせようというのか!」とけんもほろろに断られました。まだ時期が早かったのです。
東北の被災地支援「EAST LOOPプロジェクト」
それでもあきらめずにもう一度5月に被災地を訪れたところ,たった一か月で状況が激変し「被災者に何かさせないと,二次被害がおこってしまう。一緒にやりましょう」と思いがけず話が進みました。どんな商品を作るのか,寄付ではなく商品として購入してもらうために何を訴求したらよいのか。実績も何もないところからのスタートでしたが,たくさんの人の力を借りて,東北支援プロジェクトEAST LOOPは誕生しました。二つのハートが寄り添う形のデザインのブローチには,台紙の裏に作った人の場所と名前が書いてあります。フェイスブックなどを通じて,被災した人たちにメッセージを送ることができるようにしました。
プロジェクトが進みはじめると難題ばかりでした。フランス製の材料が品切れ,手芸店を回って糸を買い漁ったり,商品の仕上がりが悪く何度も作り直してもらったり,納品数量を間違ってお客様に謝ったり,ある時は生産過多で,在庫の山になったり。
働くことで人とつながる。働くことが生きる力になる。
困難に直面したとき,
思い出すのはラボ・キャンプの体験
そんな時に思い出すのは,ラボ・キャンプでした。黒姫や高梁(たかはし),産山(うぶやま)でシニアメイト(キャンプ・リーダー)をさせてもらったことは,私にとって貴重な経験でした。どんなに準備をしていても,事件やトラブルは毎日いくつも起こりました。小さな子がホームシックで泣き出したり,キャンプファイヤーが雨で中止になって別のイベントを急きょ組み立てたり。ラボ・キャンプにはマニュアルがないので,自分たちで考えてすべてを解決し,参加したラボっ子たちに,思い切り楽しんでもらう場を提供しなければいけないのです。トラブルのたびに,悩んだり落ち込んだりしていましたが,最後には悩んでいても仕方がない,状況が変わったのだから柔軟に考えて,最善の策で運営しよう,その場にいたシニアメイト全員がそんな雰囲気で,トラブルがあればあるほど燃えて,楽しんでいたような気がします。
そのスピリッツが植えつけられていたからでしょうか,EAST LOOPのプロジェクトは結果的に,被災地に3000万円以上の収入をもたらしました。「○○さんのブローチ買いました。とっても丁寧な仕事ですね」直接届くメッセージは,生きる力につながったと作り手さんが語ってくれました。経済産業省のソーシャルビジネスケースブック(震災編)にも取り上げられ,注目を集めました。
EAST LOOPの活動が掲載されたソーシャル・ビジネスケースブック(経産省),「企業と震災」(日本財団編)にも取り上げられる。
ラボでの貴重な経験を活かして,
今後も途上国との橋渡し,被災地の支援をしていきたい
最近大学からお招きを受けて,仕事について講演する機会があります。学生からは「どの資格を取ったらそんな仕事ができますか?」「何を勉強したらよいのですか?」など質問されます。知識だけ(主にネットを通じて)に頼っている学生が増えているように感じます。そんな時は,「考えるより,調べるより動いてみようよ。そうしたらわかることもあるし,自分で経験しないと身につかないと思うよ」と返答しています。
語学力を伸ばすのであれば,中学一年のホームスティは効率的ではないかもしれません。でも,わずかなことばしか知らなくて,たったひとり海外で過ごした経験は,私と外国の距離を一気に近くしてくれました。マニュアルで整えられたキャンプであれば画一的で統制のとれたものになるかもしれませんが,自らが考え実行するという経験を得て,トラブルを楽しむスピリッツを身につけることはできなかったかもしれません。私はラボでの貴重な経験を活かして,今後も途上国との橋渡しのためにフェアトレードを推進し,東北の被災地のために取り組んでいきたいと思っています。
















