2025年11月の紹介
The story of the Zashiki Bokko
ざしき童子のはなし

2025年11月の紹介
The story of the Zashiki Bokko
ざしき童子のはなし
ぼくらの方の,ざしき童子(ぼっこ)のはなしです。
This is the story of the Zashiki Bokko as we see it from here.
あかるいひるま,みんなが山へはたらきに出て,こどもがふたり,庭であそんで居(お)りました。
A bright day. Everybody had gone to the mountains to work, leaving two children in the garden to play.
大きな家にたれも居(い)ませんでしたから,そこらはしんとしています。
There wasn't a soul in the big house, so it was quiet as the grave all around.
ところが家の,どこかのざしきで,ざわざわっと箒(ほうき)の音がしたのです。
And yet, the swishing and rustling of a broom could be heard in one of the rooms of the house.
ふたりのこどもは,おたがい肩にしっかりと手を組みあって,こっそり行ってみましたが,
The two children went in shoulder-to-shoulder arm-in-arm to steal a look,
どのざしきにもたれも居ず,
but there wasn't anybody in any of the rooms,
刀の箱もひっそりとして,かきねの檜(ひのき)が,いよいよ青く見えきり,
the sword box was untouched and the white cedar hedge looked all the more blue...
たれもどこにも居ませんでした。
there was simply not a soul in sight.
それでもやっぱりどこかで、ざわっざわっと箒の音が聞こえる。座敷をのぞいてみても、誰もいない。
こんなのがざしき童子です。
ほかにも、こんなお話が『ざしき童子のはなし』には収められています。
・子どもたちが遊んでいると、いつの間にか子どもが一人増えてしまっている。でも、増えた一人がだれなのかわからないという話。
・座敷で遊んでいた子どもが意地悪をして、新たに遊びにやってきた子と遊ばないように隣の座敷に駆け込むと、そこにはなぜかその子がいて泣き出しそうな顔をして座っていたという話。
・川の渡し守が夜に呼びかけられて対岸にいくと、紋付き袴を着て刀を差した子どもがいて、川を渡って別の家に行くという。しばらくすると、その子がもともといた家はおちぶれ、新しく行った家は栄えた、という話。
どれも不思議な話ばかりです。
ざしき童子(ぼっこ)は、ざしきわらしとも呼ばれ、岩手県を中心とした東北地方に伝わる妖怪(精霊)です。
子どもの姿をして、古い家に住み着くといわれています。
ざしき童子のいる家は栄え、いなくなると衰退すると信じられているため、家の守り神ともされています。
一般に妖怪というと、なんだか恐ろしげなものを想像してしまいますが、ざしき童子の場合はどうでしょうか?
子どもたちはちょっと不安を感じたり、混乱したり、びっくりしたりしているようですが、怖ろしがったり怯えたりしてはいないようです。
そしてこの『ざしき童子のはなし』で語られる4つのおはなしは全て、次の言葉で締めくくられます。
「こんなのがざしき童子です」
“The Zashiki Bokko is this sort of thing.”
ざしき童子の存在は不思議なものでも特別なものでもなく、生活の中にある当たり前のことのように語られています。
少し前の東北では、いえ、少し前の日本では、人々はこうした目に見えない不思議と共存しながら暮らしていたのかもしれませんね。
そしてだからこそ、この不思議に静かな物語が、心の深いところに響くのかもしれません。
ぜひ、じっくりと聞いてみてください。

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