2025年10月の紹介
THE RESTAURANT OF MANY ORDERS
注文の多い料理店

2025年10月の紹介
THE RESTAURANT OF MANY ORDERS
注文の多い料理店
Two young gentlemen, dressed in an utterly British military fashion with rifles sparkling on their shoulders
二人の若い紳士が,すっかりイギリスの兵隊のかたちをして,ぴかぴかする銃をかついで,
and two dogs that resembled polar bears at their heels,
白熊のような犬を二疋つれて,
were speaking to each other as they went on their way amid the rustling leaves deep through the heart of the mountains.
だいぶ山奥の,木の葉のかさかさしたとこを,こんなことを云いながら,あるいておりました。
“Damn these mountains, that’s what I say.
「ぜんたい,ここらの山は怪しからんね。
No birds or animals here either.
鳥も獣も一疋も居やがらん。
I’m just itching to blast something, and I don’t care what it is!”
なんでも構わないから,早くタンタアーンと,やって見たいもんだなあ」
“I’d get such a kick out of planting two or three shots smack between the yellow ribs of a deer.
「鹿の黄いろな横っ腹なんぞに,二三発お見舞もうしたら,ずいぶん痛快だろうねえ。
It’d spin round before hitting the dirt with the hugest thud!”
くるくるまわって,それからどたっと倒れるだろうねえ」
They were really in the heart of the mountains now.
それはだいぶの山奥でした。
They were so deep that even their guide, a professional hunter, had lost his bearings and gone off somewhere.
案内してきた専門の鉄砲打ちも,ちょっとまごついて,どこかへ行ってしまったくらいの山奥でした。
東京からハンティングにやってきた二人の紳士は、山で道に迷ってしまいました。
歩き疲れておなかをすかせた二人がふと後ろを見ると、立派な西洋作りの家があり、「西洋料理店 山猫軒」と札が出ていました。
二人が店に入ると、中には次々に扉が現れ、それぞれの扉には文字が書かれています。
「髪の毛を整える」「鉄砲と弾を置いておく」「帽子と外套をとる」。
二人はいぶかしがりながらも扉に書かれた指示に従い、奥に進んでいきますが、そのうち注文は「クリームを体に塗る」「塩を体にもみこむ」など奇妙なものに変わっていきます。
そしてとうとう二人は、その扉に書かれていた注文の本当の意味を悟ります。
このお話に出てくる二人の紳士は、ちょっと見栄っ張りのようですね。
きっとお値段も張るのでしょう、イギリスの兵隊の服を着て、鉄砲もピカピカ。
犬が倒れると、犬の値段を競い合います。
二人は獲物が取れないので、宿屋で山鳥を買って帰ろうと言っていますが(実際に買って帰りますが)、きっと東京に帰ったときに、自分が仕留めたと自慢するためでしょう。
二人は相当なお金持ちなのでしょう。
そばやうどんが10銭、大卒銀行員の初任給が50円という時代に、2400円もする犬を飼っていて、山鳥を10円も買って帰ることができるのですから。
でもちょっと金額が現実離れしている気もしますね。
もしもそうだとすると、やっぱり二人は見栄っ張りなのでしょう。
立派でピカピカな装備で着飾っても、銃を置き、服を脱いでしまえば、目前に迫ったピンチには無力ですね。
がたがた震え、顔をくしゃくしゃの紙屑のようにして泣くことしかできません。
最終的にこの二人は、命を取られることはなく、くしゃくしゃの紙屑のような顔のまま、東京に帰ることになります。
体面を気にする二人にふりかかるこの顛末は、皮肉が効いているようで興味深いですね。
そしてこの宮沢賢治の、美しくて透明感のある独創的なことばで作られた物語を英語にしたのは、ロジャー・パルバース氏です。
パルバース氏は、このライブラリーが刊行されてから10年後、2008年に第18回宮沢賢治賞を受賞されています。
宮沢賢治の日本語と、パルバース氏の英語で、この味わい深いお話を楽しんでみてくださいね。

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