2020年2月の紹介
PIERRE
ピエールとライオン

2020年2月の紹介
PIERRE
ピエールとライオン
PROLOGUE
There once was a boy named Pierre
who only would say,
“I don't care!”
Read his story, my friend,
for you'll find at the end
That a suitable moral lies there.
おとこのが ひとり
なまえは ピエール
このこが いうのは ただひとつ
「ぼく,しらない!」
どうぞ みなさん およみなさい
きちんと よめば おしまいに
ためになること かいてある
CHAPTER 1
まきの1
One day his mother said when Pierre climbed out of bed,
あるあさ おきた ピエールに おかあさんが いいました。
“Good morning, darling boy, you are my only joy.”
「おはよう,ぼうや。わたしの たから」
Pierre said,
ところが,ピエールは
“I don't care!”
「ぼく,しらない!」
“What would you like to eat?”
「なにが たべたい?」
“I don't care!”
「ぼく,しらない!」
“Some lovely cream of wheat?”
「おいしい クリームいりの おかゆは どう?」
“I don't care!”
「ぼく,しらない!」
“Don't sit backwards on your chair.”
「うしろむきに こしかけちゃ だめ」
“I don't care!”
「ぼく,しらない!」
“Or pour syrup on your hair.”
「シロップ あたまに かけないの」
“I don't care!”
「ぼく,しらない!」
おかあさんとおとうさんがなにをいっても,「ぼく,しらない!」と答えるピエール。ふたりが出かけてしまうとライオンがやって来ましたが,やはり「ぼく,しらない!」とピエール。そこでライオンはピエールをたべてしまいます。帰ってきたおとうさんとおかあさんはおどろいて,いそいでお医者さんのところへライオンをつれていき,ライオンをさかさにふってピエールを助け出します。ライオンに「わたしにおのりください」といわれてはじめて,ピエールは「はい。わかりました。のりまーす!」というのでした。
いわゆる「教訓物語」ですが,子どもたちには人気があります。親からの注意には素直にならず反抗する。「しらない!」を繰り返して親がいらだつのを楽しむといった,子どもそのものが描かれているからでしょう。ピエールは自身が抱える苛立ちや不満,ストレスなどをライオンのお腹の中で浄化するのでしょうか,素直になってお腹から出てきます。奇想天外なストーリーですが,『かいじゅうたちのいるところ』『ロージーちゃんのひみつ』など,他の絵本でも子どものあるがままを描き,子どもの感情を共有する作者モーリス・センダックならではの作品といえるでしょう。
この絵本はNutshell Library(邦題:ちいさなちいさなえほんばこ)に入った4冊のうちの1冊が元になった作品です。4冊はどれも手のひらサイズの絵本で,小さな箱に収められています。センダックは少年の頃に,姉からりっぱな装丁の『王子と乞食』(マーク・トゥエイン作)をもらいました。センダックはこの本が大好きになり,本作りに携わりたいと願いながら成長しましたので,センダックの絵本作品はどれも形が異なっていて,工夫が施されています。『ピエールとライオン』も装丁(本のデザイン)に凝っていて,各章が始まる前には天飾りのカットがあり,扉の口絵や目次にもイラストが配置されていて,とてもていねいに作られています。ぜひイラストも隅々まで楽しんでみてください。

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