2021年5月の紹介
TANUKI
たぬき

2021年5月の紹介
TANUKI
たぬき
Once upon a time
むかしむかし
a long time ago,
ずーっとむかし,
in a pine forest on a mountain,
山の上の松林の中に,
lived an old priest who was very wise and very kind.
とってもかしこくてとっても親切な年とったおしょうさんが住んでいました。
He lived in a temple, all alone.
おしょうさんは,たったひとりでお寺に住んでいました。
But he was never lonely.
でも,ちっともさびしくはありませんでした。
All the animals and birds in the forest, and all the children in the villages loved him.
森の動物や鳥たち,それから村の子どもたちも,みんなおしょうさんが大好きだったのです。
The fish in the stream loved him, too,
小川の魚もやっぱりおしょうさんが大好きでした。
and so did the frogs, the lizards, and the snails,
かえるも,とかげも,かたつむりも,
and even the snakes who lived under rocks.
それから岩の下に住んでいるへびだっておしょうさんが大好きでした。
You see, the old priest was very kind to them.
そう,おしょうさんはみんなに,とっても親切だったのです。
松林の中から1匹のたぬきがやってきて,おしょうさんに止められてもこっそりと柿をたくさん食べてしまい,おなかがどんどんふくれてしまいました。それをみつけたおしょうさんは,薬をあげてたぬきを助けてあげますが,じつはその薬は,なろうと思ったら何にでも化けることのできる魔法の薬だったのです。その後,たぬきは小包に化けて世界のあちらこちらを旅します。イギリスのロンドンでは衛兵に化けてバッキンガム宮殿にもぐりこみ,ケニアのナイロビではサファリでハンターと対決し,カナダの北極圏では犬ぞりの騎馬警官隊に加わるのでした。
「たぬき」という動物は日本原産で,英語だとJapanese raccoon dogといい,アメリカ原産のアライグマ(raccoon)とは異なります。たぬきはオオカミやキツネといっしょのイヌ科で,あらいぐまはイタチ,アナグマ,カワウソなどと同じイタチ科です。日本語には,「たぬき寝入り」「きつねとたぬきの化かしあい」「とらぬたぬきの皮算用」などといった表現があります。また古くは「日本書紀」にみることができるたぬきは,『かちかち山』などの日本の昔話や,ゲーム,アニメにも登場して,不思議な能力で変身をしたり,いたずら好きだったり。たぬきは日本ではなかなか人気のある動物です。
作者のC.W.ニコル氏は,南ウェールズの出身ですが,世界を回ってさまさまな経験をして,日本で暮らすようになった方です。「生きていることば(英語)を子どもたちに与えたい」と思って書いたニコル氏の処女作が,この『たぬき』です。氏の多くの体験から感じた自然への愛や,異なる文化への敬愛の念を,たぬきといった日本古来の動物を主人公にして書いたのではないでしょうか。日本をスタートして,世界各地で騒ぎをくり返すたぬきの冒険物語をお楽しみください。

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