おすすめ音楽CDその10――物語の長さ |
02月19日 (木) |
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物語の長さ
もう、ほとんどおすすめ音楽CDというタイトルとはかけはなれた
内容になってはいるが、意地でタイトルは維持!
400字詰め原稿用紙1枚をきちんとナレイションすると約1分かかります。
早口のひとに一気読みしてもらうと45秒くらいですが、これだと見事な
「棒読み」になります。ラボ・ライブラリーの場合は物語の山や谷を表現したいわけですから、1行はおろか1字1句たりとも棒ではこまるわけです。
そこで、この1分というのはゆずれないわけです。
ラボ・ライブラリーはひとのおはなしをだいたい15分以内、すなわち英語・日本語+音楽で30分でつくるようにしています。この15分はかつて大活躍したラボ機(もはや死語になりつつあるかな)で再生したラボ・テープの1チャンネル分の長さです。いまはCDですから70分は入るので、ずいぶんと楽になりましたが、この15分の壁はたいへんなことなのです。ちなみにCDの収録限界74分というのは世界基準ですが、ソニーなどが中心となってきめられたものです。その根拠はベートーベンの交響曲が1番から9番までどれでも1枚に入るということだそうです。
じゃあラボ・ライブラリーの15分の根拠はというと、『さんびきのやぎのがらがらどん』などの名訳で知られる故瀬田貞二先生によると、子どもにとっての物語の長さはとても重要で、長過ぎればあきてしまうし、短すぎても満足しない、そうです。その点、自転車上の偉大なメディアである紙芝居の名人などは、そのあたりの呼吸をじつによく理解していたと思います。
また、石井桃子先生は子どもたちに人気のある物語の読み聴かせの平均時間は、およそ12~13分という研究結果をのこされています。
かくしてラボ・ライブラリーは15分を単位につくられるのですが、ラボ・ライブラリーは音楽がはいりますから、その分の余裕をみなくてはいけのせん。そこで400字詰め原稿用紙で13枚半くらいで書かねばならないというわけ。つまり30分のおはなしですと27枚ということです。
これは字数になおすと約10000字。これで、ラボっ子がどきどきして、美しいことばにみちていて、山あり谷あり、起承転結、序破急がある物語をさくるというのが簡単だという方は、よほど祝福された才能の持ち主でしょう。
とりわけ難かしいのは冒頭。前にも書いたけど、物語の頭はゆっくりとでも、美しく、そしてすばやく子どもたちをひきずりこみたいわけです。ていねいにやり過ぎると、あっという間に5枚くらい浪費してしまいます。もちろん、冒頭のみならず途中もラストもたいへんではあります。
さて、ラボ・ライブラリーは英・日ですから、日本語で物語をつくれば英語はあとから、そして英語がオリジナルなら日本語をあとからつくるわけです。ここでも困ったことがあります。それは訳した言語のほうがどうしても長くなるということです。これのバランスをとるのがもうたいへん。
でも、そのおかげでラボ・ライブラリーは濃厚なものになっているわけ。一言語だけできけばじつさにすっきり、おかゆのような感じですが二言語できくともうすこし濃い、オニオングラタンスープのようなものになっているはずです。それは新しい風味への挑戦、子どもにとっては感性のトレーニング。だからラボ・ライブラリーは聴くだけでもすげえ意味があるっス。
そこでは。やっぱり物語の中身がだいじ。ただ、おぼえやすいからとか、テーマ活動がしやすいというのは、だめなんですなあ。ラボ・ライブラリーとそれに続くテーマ活動は、これまで書いてきたようなさまざまな条件と現在ラボ・パーティで検証中の仮説によって成り立っているわけです。
いつも道の部分があるからだからおもしろい。そして、未知な部分があつてもこれだけはいつもいえるのは、テーマ活動という、異なる年齢による子どもたちが、物語を通して世界を知る、こんなにも全人的な活動はほかにないということですなあ。
次は、台詞の録音のことを書こうかな。
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Re:おすすめ音楽CDその10――物語の長さ(02月19日)
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ぼっくりさん (2004年02月20日 00時00分)
物語の長さの事、ものすごく興味深いです。
普通なら知り得ない専門的な内容なのに、とてもわかりやすく書かれて
いるSENCHOさんの文は無駄が無く、よく伝わります。
物語CDは、聞けば聞くほど底なしに、様々な面で丁寧に考えられてつ
くりあげられているんですね。
濃厚、という言葉、ママさん達に話す時にも使わせていただこう・・・
”一言語でおかゆ、二言語でオニオン・グラタン・スープ、だからCD
を聴くだけで意味があるっス”の部分に、特に感動したので、これも伝
えたい、されど、私の言葉ではうまく伝えられるかと頭を悩ませます。
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