子どもが「育つ」ってどんなこと?
(その2)

田島 信元

白百合女子大学教授,
東京外国語大学名誉教授,
発達心理学,
ラボ言語教育総合研究所共同代表

子どもは人間関係づくりの天才!

まわりの人に興味津々。そのわけは…?

 生まれてから約2年間,子どもは「人間関係づくり」に集中します。テレビやおもちゃ…子どものまわりにはさまざまなものがありますが,いちばん興味をもつのは「人」です。お母さんやお父さんがいっしょだとよろこんで遊ぶおもちゃでも,ひとりではすぐに飽きてしまうことがよくあります。それは子どもの興味の対象はおもちゃそのものではなく,そのおもちゃで遊んでくれるお母さん,お父さんなのです。なぜ子どもにはこのように人に興味をもつかというと,学習能力は人とのかかわりのなかでいちばん発揮されることを知っているからなのです。

 では,子どもがどんなふうに人間関係をつくっていくのかみていきましょう。

お母さんがいれば安心!

~「向かい合いの関係」のとき~

 生まれてから半年間くらい,子どもはいちばん身近で,自分が不安に感じるときにいつもそばにいる人を「核」として行動するようになります。「核」になる人は,多くの家庭で母親かもしれませんが,家庭の事情によってはさまざまです。このような主たる養育者への情緒的な信頼感(学問的なことばでいうと「アタッチメント(愛着)」といいます)は,子どものその後の発達をしっかり支えることになります。

お母さんは世界一の「先生」!

~「並びあいの関係」のとき~

 子どもは「核」を,たとえばお母さんと決めると,お母さんと並んで目の前のものを共有します。興味の対象はお母さんではなく,目の前にあるモノですが,お母さんといっしょに何かをすることが楽しくて仕方がないのです。どうしてなのでしょうか。

 じつは,このときのお母さんは世界でいちばんすぐれた先生なのです。たとえば車のおもちゃで遊んでいると,お母さんが「ブーブーははやいね~」と話しかける。「ブーブーがあった」とだけ思っていた子どもは「はやいっていうんだ…」と考えます。お母さんといっしょに何かをすると,プラスアルファの情報をくれる。もちろんお母さんは無意識ですが,子どもはこれがおもしろくて仕方がないんです。

  • お母さんはうしろで見ててね!

    ~「重なり合いの関係」のとき~

     ところが,ある程度知識を身につけると,今度は自分ひとりでやってみたくなります。お母さんが「並び合いの関係」の楽しかった思い出をひきずって,「やってみようか」というと,子どもは「ダメ~!」といいます。それは,「手をださないで。自分でやるんだ。お母さんを拒否しているわけではない,ひとりでできることを見せたいんだ」という気持ちからです。うまくいかなければすぐに「並び合いの関係」に戻ってきます。こうして2歳までの約1年間,お母さんのところに戻っては,自分でできるようになると,お母さんを背にして自分でやってみる,をくりかえします。


人間関係づくりの基本パターン

 このように子どもは,主たる教育者との間にしっかりと信頼関係をつくっていきます。まず「核」の人をつくり,その人と共有できたら,今度はその人をバックにしてひとりで活動するようになる……人間関係をつくるときには,いつでもこういうパターンになります。幼稚園や学校などでも,おとなになってからでも同じです。その基礎が2歳までにできているのです。

ことばの習得と子どもの世界の広がり

コミュニケイションからことばを学ぶ

 3歳までに子どもが身につけるとても大切なこと,それが「ことば」です。教えられるのではなく自分で獲得していきます。

 親は生まれたばかりの赤ちゃんにも,ことばがまったくわっていないと思いながら「かわいいね」「元気?」とことばをかけます。これがすごいことなんです。それを子どもなりに推測して意味づけていきます。はじめはお母さんの意図とかなり違っていることがありますが,しだいに修正され,意味が一致してきます。

 いっぽうお母さんも子どものようすについて「眠いんだろう」「うれしいんだろう」などと勝手に推測します。この「推測」がとても大事さんですね。たとえば,泣いている赤ちゃんを見てお母さんは,「あら!オッパイの時間かもしれない」とオッパイをあげる。赤ちゃんは生理的に刺激されるから泣いていたのに,お母さんがオッパイをくれたので,「泣いていればオッパイがやってくるんだ」と思う。そしてだんだん「泣けばオッパイがもらえる」「泣けば遊んでもらえる」というのを効率よくするために泣き方を変えていくのです。まさにこれがことばのはじまりです。

母語習得のひみつ

 ことばというのは学習能力を使って,人とのかかわり(交流)を通して習得されます。しかも子どもにとっては,ことばそのものを学ぶのではなく「オッパイがほしい」「遊んでもらいたい」という「活動」が目的なのです。

 学校で何年も勉強しても,英語を習得できないという現状がありますよね。そのいっぽうで母語の場合は,生まれてからわずか3年くらいで基本部分は確立してしまいます。このちがいのひみつは,どうやらここにあるようです。

子育て中のお母さんたちへ

教育相談での経験から

 北海道大学で教育相談を行っていたときに,子どもの情緒的な問題に関する相談も多くありました。その場合には「『並び合う関係』のころを思い出して,ふたりで何かやってみてください」とアドヴァイスします。爪かみや夜尿なども,「並び合う関係」を取り戻すことによって,子どもがいきいきと活動しはじめると,症状は急速に改善してきたものです。

親子関係,いちばんの大切なポイントは?

 それは親自身が,子どもとかかわって楽しかったかということです。親が子どもと遊んで楽しければ,だいたい「並び合いの関係」になっています。そして子どもはそこから瞬時にさまざまなことを学んでいます。

子どもと暮らす自分の生活を楽しんで

 子育てというのは手を抜いてはいけない。でも手を出しすぎてもいけない。親は子どものためにだけ生きているのではないのだから,半分以上は自分のために生活をしてください。それを子どもは見ています。ただ,可能なら幼児期までは子どもとともに自分の生活をする。つまり子どもを見ていられる状況のほうがありがたい。でも子どもにつくすという発想はいけません。子どもをダメにしてしまいます。その意味ではお母さん自身の自己実現,これをめざすことがすばらしい子育てをすることになるでしょう。

 子どもの発達や発育に関して,他の子と比べて不安になってしまうお母さんも多いようです。子どもは十分な経験と条件さえそろえば,もちまえのすぐれた学習能力であっという間に学んでしまいます。もっと子どものもっている力を信じて,もう少しラフに,いっしょに楽しむというような気持ちでいてもらいたいですね。それが,かえって子どもをすこやかに育てることになるのだということを,ぜひ最後にお伝えしたいと思います。

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お話を伺った方

田島 信元(たじま のぶもと)

1946年生まれ。
白百合女子大学教授,東京外国語大学名誉教授。
ラボ国際交流センター評議員,ラボ言語教育総合研究所共同代表。
東京大学大学院教育学研究科修士課程終了(発達心理学専攻)。
博士(人間科学)。

 北海道大学教育学部付属乳幼児発達臨床センター(北大幼児園)にて研究のため10年間子どもたちの保育にあたるとともに,日本国内及びアメリカ合衆国のさまざまな幼児教育プログラムを調査・検討し,乳幼児の発達についての研究を長年続ける。
 主な著書に,『発達心理学入門ⅠⅡ』(東京大学出版会),『育つ力と育てる力』(ラボ教育センター),『大人になったピーター・パン-言語力と社会力-』(著者,アートデイズ)ほか多数。