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生身人間から生身の人間へ |
02月20日 (月) |
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先週の木曜日にThe Fairy Cow 音楽録音があった。曲は間宮芳生先生である。
首都圏の全国ライブラリー委員も見学にこられたので
そのようすは「ちびまま」さんがとてもていねいに書き込んでいる。
ぼくよりもはるかに文もおじょうずなので
ぼくどがぐたくだ書かなくてもいいのでじつに楽だ。
ちびままさん、これからもよろしく。
とはいえ、それもやる気がない感じなので、その一月ほど前に間宮先生のお宅に打ち合わせにうかがったときのことを書く。
音楽家とのうちあわせは、ふつう2、3回行なう。先生のお宅にうかがったのは1月なかばの水曜日だ。ずっと寒い日がつづいていたのだが、この日の午後はぐっとあたたかく、小田急線成城学園前から、コートをぬいで徒歩でいくことにした。
くわしい住所はかけないが、先生のお宅は小高い丘の中腹にある。ベルをならすと先生と奥様がお二人で迎えてくださった。駅前の花屋でしつらえた黄色いチューリップとカスミ草の花束をさしあげると「ちょうどお花がきれていて……」と奥様がにこやかにこたえられて緊張がとける。芸術家の妻としての威厳とやさしさ。衣食足りても礼節をわからぬ自分がまたはずかしい。
先生の仕事場は1階の奥、グランドピアノがデンとかまえその奥に机とオーディオ装置。窓のむこうは世田谷の屋波と森。
「せまいくてもうしわれないね」とおだやかに先生が笑われ、パイプ椅子をもちこんで3人で打ち合わせをすすめる。
物語とその音楽については、じつにきびしく適確な質問と指摘とご意見(あたりまえだ)。しかしひととおりの打ち合わせがすんで、使用する楽器のことや、リズムにことなどを素朴におたずねすると(それが意味のある質問の場合)、じつにいきいきとそしてたのしそうに話をされ。ねっからの音楽家(これもあたりまえ)なのだということをあらためて実感する。
陽がすこし西にかたむく。話をしながら、もう15年以上もまえに『スーホの白い馬』の音楽をお願いしにうかがった日のことがフラッシュバックする。あのときは、先生は紫綬褒章をうけられた直後だった。ラボと先生はそのころある事情で距離があるときで、はたしてひきうけていただけるかの自信はだれにもなかった(今思えば、ご自宅にうかがえるというのはOKということだったのだ)。その日、われわれは3人でうかがったのだか、緊張しながら「引き受けるといっていただくまで動かないようにしよう」なとど、子どもじみた無謀な計画を話し合った。
ところが、グランドピアノの横でかしこまるわれわれの前で、先生はいきなり「馬頭琴のルーツはねえ……」とたのしそうに作品の話をはじめられたのだ。さまざまないきさつとか、しがらみとか、おっしゃりたいことは山ほどあったはずなのに、そういったことにいっさいふれず、音楽のプロとして直線的に仕事の話をされた先生の大きさとやさしさに涙がでそうだったのを今でもおぼえている。プロとはなにかを先生は伝えたかったのだ。
そんな思い出にふけっていると、もうおいとまの時間が近づいた。最後に、40周年の今年、秋ごろにぜひこれまでをふりかえってラボのことやラボ・ライブラリーの音楽について先生のお考えをきかせてくださいとお願いした。先生は、「うん。それもいいかもしれない。ラボも40年、いろいろあっただろうけれど。ずぅっとかわっていないことがあるでしょう。私の話でそのことを確認してもらえるかもしれない」。「それは、ラボ・ライブラリーのつくり方とかテーマ活動のあり方ということですが」とボケたこたえをぼくがかえすと、先生は「いや、というより、ラボ・ライブラリーもその音楽もテーマ活動も、生身の人間から生身の人間へ、生身の人間の耳から耳、心から心へわたすものだということです」としずかにおっしゃった。そのおこたえが、いまひとつつかめないまま席をたつ。
「成城もいまひとつつまらぬ街になったかな」と、にが笑いをうかべる先生におくられて外にでる。さすがに風がつめたくなってきた。駅ゆきのバス停につくと、すぐに赤と白のバスがやってきた。そして、バスにのりこみお金をいれた瞬間はっとした。
先生のことばは、「生身の人間から生身の人間へ。そういう、たいへんで手のかかることを、これからもつづける覚悟でなければ、きみたちとはつきあえないよ」
という叱咤であり、「でもそうしたことを、たいへんだけど、なかなか社会に理解しもらえなくても、自信とほこりをもってつづけていきなさい。ぼくは応援するよ」という激励でもあったのだ。
この時代の音楽に責任をもってきた芸術家のこどははに、またまた蒙を啓かれたのだった。
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Re:生身人間から生身の人間へ(02月20日)
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とんかつ姫さん (2006年02月21日 00時42分)
ちびままさんのページを読んでからこちらを訪問して、更に良い話にで
あって良かった(#^.^#)。
SENHOさんならではの良いところで「良~い仕事」していらっしゃるんで
すねぇ。
ちょっとしたいきさつのあった頃からの間宮先生の大きな懐に包まれて
のラボのお付き合い、共にライブラリィを育てて行って下さっているこ
とを忘れずに新刊に向かい合いたいと思います。
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