幼児教育・英語教室のラボ・パーティ
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無心の筆、『きょうはみんなでクマがりだ』と選考会の思い出 05月01日 (月)
jam
三澤制作所のラボ・カレンダーをめくる。
卯月から皐月へ。
すでに緑が息苦しい。
その下で新入生たちの声が
小鳥のように飛び交っている。
学園暮らし、4年目の初夏だ。
nh
昨夜、記念祭と夜の会食で
けっこうグダグダに疲れて帰宅し
泥のように眠った。
eew
それでも今朝は5時に目覚め、
朝食前の朝日のなかで
カレンダーをめくった。
朝の自然光で観る色が
絵も人も風景も本来の色だ。
美術館のプロによるライティングも
素敵だが、
午前のやわらかな自然光のなかで
コーヒーなど飲みながら
ぼんやりながめる
友だちが5分で描いたリンゴのイラストに
救われるときもある。
品のない話で恐縮だが
夜のルージュより
朝の光を反射する
血の通いはじめた唇が
艶かしいときもある。
とにかく今朝は、
この5月の絵が疲れた身体を
癒してくれた。
絵は
Helen E. Oxenbury絵、
Michael Rosen文による絵本作品を
もとにしたラボ・ライブラリー
We're Going on a Bear Hunt
『きょうはみんなでクマがりだ』に
題材を求めたもの。
ujjuy
描いてくれたのは、
石郷岡将汰くん(5歳/伊丹市中出P)だ。
人生爽やか笑顔で毎日を過ごしたいが、
年を重ねるごとに、
いや子どもでも
嫌なこととか、つらいこととか、
くそーっみたいなことはしょっちゅうある、
それは『かいじゅうたちのいるところ』の
マックスが証明している。
でも、それらのお悩みの大半は
客観的に見れば些細なことが多いが、
本人にはのっぴきならない大事だったりする。
そうした心の底の小石や沈殿物を
吹き飛ばす術をはいくつかあるが
その明快な一つが将汰くんのような
無心で自由闊達な絵だ。
無心、自由とことばにするのは
easyだが、
10歳を過ぎるとなかなかできない。
ジョアン・ミロは5歳の眼を持っていたと
いわれるが、
誰しもミロになれるわけではない。
パブロ・ピカソは晩年、
幼いこの絵のような作品をたくさん
つくり、
「やっとこんなふうに描けるようになった。
70年かかった」といっている。
ピカソにしてこうである。
何も考えるなといわれると
人間は考えてしまう。
「彼女のことを考えないようにする」
というのは
「彼女のことを考える」のと
事実上同じことである。
禅宗のなかで臨済禅などは
公案という
理論では説明できない問題を考えて参禅するが、
(有名なのは「隻手の音」、両手を打つと
音がするが片手の音とは……)
曹洞宗などでは黙照禅といって
基本的に何も考えずにひたすら瞑想する。
昔、その黙照禅を体験したとき、
邪念の塊のぼくへのadviceとして
「目を瞑り、目の前の庭の風景を
想像して集中しなさい。
そして、灯篭とか、松とか、池とか、
順番に消していってごらんなさい。
すべて消えた状態を保てばいいのです」
そうやってトライすると身体は
あまり動かないし
ある程度だけど無っぽくなれた。
でも眠りそうになった。
かように無心は難しい。
将汰くんは、
おそらく無心で描いている。
哲学的な意味での無心かどうはさておき、
少なくとも
「うまく描こう」とか
「じょうずだねといわれたい」とか
「先生にほめられたい」などとは
考えていない。
「こんな絵では怒られるかな」とか
「もっとていねいに描きなさい」
っていわれるかなとも考えていない。
じつは上記のことは、
大人や、ある程度の年齢になった
子どもはつい考えてしまう。
uyuy
これも推測だが、
将汰くんのクレパスと筆を
動かしているのは、
ただこの物語が好きな気持ち、
この物語によって刻まれた
心のリズムだけだ。
そう、「そらはこんなにはれてるし」
という透明な気持ちだけだ。
だから、色を見てごらんなさい。
空も草はらも
「スカッと抜けて濁りがない」
この澄んだ色を観ながら食べる
朝ごはんは最高の気分だ。
しかし、ただ透明なだけではない
草はらにはビリジアン系の
濃淡で色変化があり、
空のsky blueに雲が気持ちよい。
人物の肌色も澄んでいるし、
クマの茶色もいい感じだ。
巧まずして空の色と補色関係になっていて
茶色の重さを消している。
色数は消して多くないが、
濁りなく彩色されているのは、
毎回、筆をよく洗って
柄も拭いているか、
複数本の筆を用意したのかわからない。
そのあたりに大人のadviceがや
あったのがどうかは不明だが、
仮に助言があっても、
それを持続して実行するのは
将汰くんの年齢ではたいへんである。
基本はクレパスで線を描き、
不透明水彩で彩色していると思われるが、
そのクレバスの線に躊躇がない。
うまく形を取ろうという狙いがなく
まさに無心で、楽しさのなかで
物語のリズムのままに引かれた線だ。
そのことが、動きと速度感を作り出した。
これもこの作品の魅力だ。
人物もクマもフリーズしていない。
また、水彩での彩色も決め手だ。
ラボ・カレンダーの絵の応募サイズは
たぶん将汰くんの肩幅より広い。
それは彼にとっては驚異的な大きさのはずだ。
その面積をクレパスで塗るのき
たいへんな負荷になる。
クマの楽しそうで
かつとぼけた、
「ここまでおいで」的な顔がいい。
人物の表情は、
うれしそうでもあり、
びっくりしてそうでもあり、
怖がっていそうでもある。
いろいろ想像が広がるから
5歳くらいの子どもの絵はおもしろい。
無心に描いているからそうなる。
受け手の想像を刺激してくれる。
いかにもクマだ! びっくりとか、
ではつまらない。
もともとこの絵本は
詩人のマイケル・ローゼンが
キャンプソングをもとにしてして文を書き、
オクセンバリーが絵を描いた。
muu
物語が終わった後の
「とめ絵」で、
「ほんとは遊びたかったのに」
という雰囲気で
寂しそうに帰っていくクマが
描かれているのは
オクセンバリーの解釈と遊び心と
「思い」だろう。
ハンティングという行為に対する
穏やかなアンチテーゼとも取れる。
将汰くんはどう感じたのだろうか。
単にリズムのよいお話以上のものを
感じ取っていることは確かだと思う。
この物語はラボ・ライブラリー
『ドン・キホーテ』に収録され
1997年夏にリリースされた。
20年前の作品だ。
このときは久しぶりに
日本語音声収録をラボっ子で行なうことにした。
テープ応募による
一次選考を経て、
二次選考をワークショツプ形式で
開催した。
演出の西村正平先生の指導で
数グループに分かれて練習して
相談タイムの後、
また発表してもらった。
そんななかで、
自然と選考をすることができ、
その選考会自体が教育プログラムとして
成立した。
じつはぼくは、ラボっ子に
制作に参加してもらいたいが、
いわゆるオーディション
みたいなものは
ラボになじまないと感じていた。
しかし、スタジオに行くのは
限られた人数だ。
単に落ちたとか、合格したという
短絡的な選考会ではなく、
それ自体がワークショップ的な
プログラムになって、
結果としてはスタジオに行けなくても
参加してよかったと思わってもらえる
選考会になればと思ったことが
実現した。
だから、この物語以降、
ラボっ子から音声吹込み者を募る場合は、
はっきりいって手間はかかるが、
できるかぎりワークショップ形式で
行なうようにした。
そして、必ず参加してくれたラボっ子には
以下のメッセージを
一次選考を
通過できなかった子には文書で、
ニ次選考以降の場合は直接語りかけた。
「この吹込みラボっ子募集に
応募しようと行動してくれた
みなさんは、その時点で
制作の仲間です。
みなさんの
ラボ・ライブラリーづくりに参加したい
というハートに感謝します。
そして、こんなにも
多くの子どもたちに愛されている
ラボ・ライブラリー制作に
携われることをほこりに思います。
できあがったラボ・ライブラリーに
クレジットされる
『日本語吹込み=ラボ・パーティの子どもたち』とは、
録音したラボっ子だけではありません。
みなさんたちすべて、
この募集に応募してくれた
みなさん全員のことです。
だから、今日の結果はどうあれ、
ぼくは、わたしは、
ラボ・ライブラリー制作に参加したんだと
どうどうと自慢してください。
ぼくも、みなさんたちのような 子どもたちと
仕事ができたことを
ラボを知らない友達に自慢します。
世界には、まだ多くの不公平や
飢餓や難病や暴力や諍いがあります。
そうしたゴツゴツした世界のなかで
ラボのような活動ができる幸せを
たいせつにしてください。
そして、世界をもっとまるく
やわらかくしといける力をもった
おとなになってください。
そのためにみなさんはラボで
学んでいるし、
今日もそのためにたあります」
選考会に来るラボっ子の熱気は
おとなが想像する以上に高温だ。
だから命がけで向かわなければ
彼らに申しわけができない。
そうも思い続けてきた。
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