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ミューゼスの海からの帰還 はやぶさ伝説 02月11日 (金)
いおん はやぶさ
 昨日、待ちに待った惑星探査機はやぶさのプロジェクト・リーダー
である國中均教授のお話をうかがう催しに参加した。
 場所は神保町の学士会館。木曜会という母校の高校が不定期に開催する
同窓生による講演と懇親会がセットになった集いである。
 國中教授は、果実の日記にも書いたし、テレビでも紹介されたように
太陽観測部という黒点の観察・研究をする部活をされていた。
ぼくは45期の卒業で教授は53期。当然面識はない。
 教授の正しい肩書きは
JAXA 宇宙航空開発研究機構 宇宙科学研究所 宇宙輸送工学研究系教授
月・惑星探査プログラムグループ 
探査機システム研究開発グループ・リーダー
である。すごい長さ!
 「はやぶさ」の打ち上げを記憶している方は、いらっしゃいますか。
それは2005年5月のこと。
いよいよ帰ってくるとわかった昨年の春ごろから
ようやくマスコミも政府も! さわぎだしたのである。
 「はやぶさ」がめざした小惑星(Asteroid)イトカワは、
差し渡しがわずか500メートルほどの小さな天体である。
かたちは2枚目の写真のようなラッコ(JAXAではそうよぶ)のよう。 
※イトカワの名は日本のロケット工学の父、糸川英夫博士に由来する。
しかし、イトカワを発見したのはMITのグループ。

 小惑星帯(Asteroids Belt)は、火星と木星の間にあり、
構成する天体の数は48万個も以上といわれる。
イトカワは、そのにかでもかなり小さいもので、高性能の望遠鏡でも
地球からは、ほとんど点にしか見えない。
そこまでたどりつき、サンプルをとって帰ってくるのは、
ほとんど無謀、だれもが無理と思っていたことだった。

小惑星への接近そのものは、比較的はやくからに行なわれいる。
1989年のアメリカの木星探査機ガリレオがイダという
比較的大きな小惑星に節金して映像を送ってきた。
そして、その後もいくつかの探査により映像が得られているが、
それらの探査機はすべてoneway ticket 片道飛行。
したがってサンプルをもって帰ることはできない。

 小惑星に宇宙研究者が注目するのは、太陽系生成のしくみに
せまることが可能だと推測されるからである。
 地球は生物が誕生して、大きく環境が変化しているために
太陽系が生まれたころの資料はほとんどない。
 だから、地球以外の太陽系天体のサンプルがほしい。
そして、これまで人類が地球に持ち帰った天体サンプルは月のものだけだ。
しかし、月のようなでっかい天体は熱などでかなり変形している。
そこで、イトカワのような
できるかぎり小さな小惑星のサンプルは貴重なのだ。
もちろん、地球に落ちてくる隕石も小惑星由来が多く、
これも貴重なサンプルである。
だが、これも地球突入の際の熱で溶けたのこりかすであるので
手つかずの表面のサンプルはとれない、

 地球からイトカワまでの距離は、およそ0.28天文単位
(1天文単位は約1億5000万kmなので、4,200万kmだ。
この気の遠くなる距離を往復するためのエンジンを開発したのが
國中教授である。
 教授は、それをなしどけるエンジンの条件をとてもシンプルに語られた。
・なるべく小さな力で長くつかえること。
・なるべくこわれにくいこと。

 そこて開発されたのがイオンエンジンである。
イオンエンジンを説明すると、とっても長くなるが、ざっくりいうと
キセノンなどのガスをプラズマ(物質は気体・液体・個体の三態に加えて
プラズマという状態がある)状態にすることで発生するイオンをつかう。
なんのこっちゃであるが、ようするに電気エンジンである。
これに対して、ロケット打ち上げのときにつかう燃料を爆発させて
その力を動力とするのが化学エンジンだ。

 おどろいたことにイオンエンジンそのものの技術は1964年くらいからあり
ラボとあんまりかわらない歴史である。
ただ、そのころのイオンエンジンはまだまだ遅く、とてもイトカワなんて
遠くの宇宙に行く力はなかったそうである。
國中教授たちは、先輩から受け継ぎ、
なんと45年もかけて育てあげた。
そして、まだまだ成長させようとしているのだ。

 イオンエンジンを4機搭載(通常3機使用、1機は予備)した
「はやぶさ」はなんと秒速30キロという速度で
宇宙を航行することができる。
これは化学ロケットの数倍から数十倍の速度だという。
しかも、たいへん長く力を発揮できる。
しかし、その力はたいへん弱い(約23ミリニュートン、すなわち
1円玉2個が落ちるちくらいの力)ため、
真空状態の宇宙空間でしかつかえない。
だからロケットで打ち上げて、それから宇宙にでたらイオンエンジンで
イトカワにむかってGO! というわけだ。
 では、どのくらい長くつかえたらいいのかというと、
基本的には14000時間、約600日連続でつかえねばならない。
そのためには、20000時間(約2年半)の実験が必要だそうで、
國中教授は、2年半ずうっとイオンエンジンを運転する実験を
3回行なったそうである。しんじられない粘りである。

 当然、開発には時間とお金がかかる。
惑星探査には、少なくも年間3億くらいの予算が要るそうである。
だが、当初の開発予算は年100万円だった。
その予算をどうとるかに教授は腐心する。
 「イトカワのようなにはるか彼方のちっほけな天体から
必ずサンプルをとって帰れるのかね」
 と上層部はきく。
例の事業仕分けでも某K間K代氏などにめちゃくちゃいわれたそうだ。
「自信はありません」
といったら、ぜったいに予算はとれない。
で、どうするか。
教授はそのこたえを、デカデカとスクリーンにうつした。
「ハッタリとツッパリ」
 一同爆笑だったが、ものすごいプレッシャーのかけ方である。
「未来はあるものではない。創るものです」
教授はそういいきった。
 
 かくして、本来の研究とはちがう政治経済のパワーも発揮して
國中ティームはついに「はやぶさ」を空にはなつ。
 まず、地球をまわる軌道(近宇宙というんだそうだ)のせて
十日間。そして、地球の引力と地球が太陽をまわる遠心力を利用して
イトカワの方向に「はやぶさ」を放り投げた(スイングバイ)。
次の計画としては、いちばんでつかい惑星である木星の引力を
つかって、もっと遠くに放りなけたいそうだ。
ほとんど「ほら男爵」の世界。

 もっとも地球周回を、ぼくらは「廻る」というが
専門家によると人工衛星は「落ちている」もので
ただ地面が半永久的に近づかないから廻っているとのこと。ふしぎ。

 「はやぶさ」の往路は比較的順調だったそうである。
約2年かけて「はやぶさ」はイトカワに接近、どんどん写真を送ってきた。
望遠鏡では点でしかなかったイトカワが、日々大きくなってくる。
そして表面が見えてくる。
この時期は毎日がわくわくして楽しかったそうである。
少年だぜ!

 しかし、もうこれだけ地球から離れると電波の往復に30分かかる。
だから、地球のコンピューターで精密な計算をして、
その結果だけを「はやぶさ」のコンピューターに送ることで
姿勢の制御や撮影などを行なうのだそうだ。

 ここまでで國中教授は仕事の半分が終わったので一安心。
しかし、いちばんたいせつなミッションはサンプルをとること。
そして帰ってくることだ。
 ここで、想定外のことがまずおこる。
イトカワの表面が予想よりはるかにでこぼこだった。
そこで、分析の結果、もっとも平そうな
ミューゼスの海(教授たちはイトカワのクレーターや地域に名前をどんどんつけた。鴨居=神奈川の地名とか、駒場とか,自分たちに関係ある名前が多いが
これはかっこいい)が着陸ポイントに設定された。
ミューズは、ご存じソングパードμのもとになった音楽の神ムーサイ
(musicの語源でもある)でミューズの神がみの海ということで
「ミューゼスの海」だそうだ。

 着陸する前には、まずターゲットマーカーという目印をおとし、
それを頼りに降下していく。
なお、このマーカーには世界中180か国から集めた88万名の人びとの名前が
きざまれているそうだ。
 着陸といっても時間はほすが1秒、その瞬間に弾丸のようなものを発射し
舞い上がったチリやホコリをすいげて、ただちにずらかという、
いわば一撃離脱、カバディのようなやり方だ。

 しかし、一回目の着陸は見事に失敗。
「はやぶさ」はイトカワの大地にゆっくりとバウンドして落下、
30分くらいころがっていたらしい。
しかも、その後、通信ができない時期が1か月もあった。
さらにまずいことに、その自己のせいで脱出用の化学ロケットが
イカレてしまった。
だが!真空中なのでイオンエンジンはつかえる。
それでもういちど宙にうかび、再着陸とサンプル採取に挑むことになった。

 しかし、國中教授の半分本音は
「もういいじゃあないか、帰ってこようよ」
「お願いだから、イオンエンジンこわさないで」
という、親のような気分だったという。
 
 それでも、2度目の着陸とサンプル採取は(たぶん)成功。
いよいよ帰還の旅だ。
 ところがとつこい、さぐざまなトラブルが続いたたため
かなり電池などをつかってしまった。
そこで太陽光での充電や、いろいなたてなおしのために
3年も帰還を延期することになった。
 このときは、もうほとんど関係者以外は、
「やっぱ無理じゃん」という態度だっとらしい。

 それでも國中教授はあきらめない、イオンエンジンを信じて
地球にむかって「はやぶさ」を航行開始させる。
だが、However、あれほどのテストをくりかえしたイオンエンジンも
予想をこえる酷使によって4機あったものが次つぎにおかしくなった。

 そして、ここから驚異。國中教授は、そんな最悪の事態も予測して
残ったエンジンを組み合わせて使用することで
「はやぶさ」を見事に地球の軌道まで近づけたのだ。

 次に悩ましいのは、地球のどこに帰還させるかである。
はじめの計画では地球の引力にとらわれる前に、
サンプルの入った耐熱カプセル(直径40センチくらいの中華鍋を
ふたつあわせたようなの)を切り離し、「はやぶさ」本体は別の目標に
むかって旅をづつけるというねのだったという。
 でも、いろいろ計算すると、「はやぶさ」本体ごと大気圏に突っ込む。
すなわち、ぎりぎりまで「はやぶさ」をコントロールしないと
正確な場所に落下させることが困難なことがわかった。
 
 帰還地点はオーストラリアの砂漠。そのどまんなか。
これは、かなり前から決まっていた。
ところが、オーストラリア政府がなすなすOKしない。
そりゃそうだ。どこの国でのもほかの国が空からおとした中華鍋が
ふってくる。それが、もし都市におちたらどうするんじゃ。というわけ。
それから、回収もたいへん、砂漠のまんなかに仮にうまく落ちたとして
どうやってみつけるか。
 着地予定地点は、ヘリコプターでいくほかない砂漠のまんなか。
陸路、ジープなどでいくことはほぼ不可能。
 さらに、そこからもちだすのは輸出となり、
日本にもちこむのは輸入となる。
 それやこれやは、一人や二人の大学教授ができることではない。
もっと研究だけさせてくれ! というのが教授の心のなかである。

 でも、ねばりにねばった。
いよいよ、帰還が現実なってくると、ついに世界中の研究機関や
マスコミがさわぎだしたのである。
それで、ついにというか、やっとというか日本政府も動きだし、
オーストラリア政府も着陸許可をだすことになる。
 ここで最後のひとふんばり。
國中教授は神技的なコントロールで「はやぶさ」を誘導、
ほぼピンポイントで砂漠のまんなかにカプセルを着地させる。
 大気圏に突入した「はやぶさ」は、カプセルをきりはなし、
宇宙の神秘という宝を抱いたわが子の旅立ちを見届けると、
自らは燃え尽き、輝く星となって蒸発する。
 その瞬間をニュース映像で見て感動された方は多いだろう。
ぼくも、号泣してしまった。

 カプセルの中身の分析は進み、3000以上ものミクロン単位の
サンプルが検出されている。それらは、まちがいなくイトカワのもの。
しかも、その3倍くらいはまだ見つかるという。
 かつては望遠鏡で点にしか見えなかったイトカワを
ついに顕微鏡の世界でとらえることができたのだ。
 
 これらのサンプルは、いまた゛いっさい地球の外気にふれさせてはいない。
さらに今回のサンプルのうち約3割は手をつけずに未来にとっておく。
それは、未来でもっとすぐれた分析方法、知見が生まれたときのため、
まだ見ぬ研究者たちのための、まさにピラミッドやスフィンクスだ。


 今回の困難なミッションの成功の要因について、
教授は興味深いいい方をした。
 通常の機械はつくると人と使う人がちがう。だから
その能力を万が一にそなえて90%で用いてもらうようにつくられる。
「はやぶさ」は基本的に5つのシステムでできているので
この方式だと90の5乗、すなわち6割弱の力しかでない。
 ところが、「はやぶさ」はつくり手と使い手がいっしょ。
だから、協力しあうば、休ませたりがんばらせたり、することで
110%の力でかうことができる。
 そうすると110の5乗というすごい力になる。
 「ようするに火事場の馬鹿力です」
 
 こんな教授の話をぜひラボっ子にきかせたいと
お願いをした。今も取材依頼は多いそうだが、
なんとか「ラボの世界」に掲載したい。

 國中教授は、「はやぶさ2」を準備している。これは2015年の
打ち上げ予定だ。
 2003年の「はやぶさ」うちあげから12年、
こんな間隔では技術とはよべないと、教授はきびしい。
もっと早く、もっと短い間隔でとりくめないと、
人類への貢献は困難だとおっしゃる。
 アメリカのようにTechnology on the Shelf
つまり、先行して完成している技術が棚のうえにいくつもあり、
なにかプロジェクトをおこすときには、それらをとりだして
すでに開始できる。
そんな人的、経済的体制が必要だという。
しかも、それが持続可能、サステイナブルでなければならない。
宇宙を知ることは、地球を知ることでもある。
自然環境問題は地球だけで考えてすむことではないのだ。

 おさむい日本の科学状況、子どもの自然科学ばなれなど
宇宙研究の未来はけして楽観できない。

 たが、國中教授はまったく落胆も絶望もしていない。
「はやぶさ2」のむこうに、さらなる想いを抱いている。

 それは最大の惑星、全能の神ジュピターの名をもつ木星と
その先の星からのサンプル採取である。
 
 「未来はあるものではなく、創るもの」だからだ。
 
Re:ミューゼスの海からの帰還 はやぶさ伝説(02月11日)
carmenさん (2011年02月12日 16時08分)

わくわく読み進めさせていただきました。本当にわくわく!
そしてなんだか、日本人が地球中に誇れる宇宙技術があること、
誇りに思わずにはいられません。
素敵な日記のシェアリングをありがとうございます。
挑戦することの大切さ
JAXA大好きさん (2022年09月19日 23時33分)

國中均先生を勝手に私淑させていただいていて、このブログに辿り着きました!素敵なブログをありがとうございます。頭の固い人を軽くいなして、自分の信念を貫いたはやぶさプロジェクトメンバーの方々、本当に素敵です!日本の宇宙開発に栄光あれ!!
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