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祖母がくれた時間 04月01日 ()
百二歳の祖母がいる。このお彼岸にはうなぎ丼を自分で食べていて、叔父たちを驚かせていた。突然「反応がなくなった」と慌てた母が、救急車を呼んで近くの病院へ運んだ。「百二歳ですか?!」と消防署もびっくりで、救急隊員だけじゃ人手が足りないかも知れないと消防車まで来てしまい(救急車に乗れる人員が限られているそうで)近所中おおごとになってしまったらしい。ところが検査してもどこも悪いところがない。診察した若い医師は、困惑きわまりなかったそうだ。ずいぶん時間がかかった末にやっと入院させてもらえた。
 一日中、うつらうつらとして、呼びかけに反応しないこともあるが、ゆめうつつのうつつの時にはずいぶんはっきりしている。長男がお見舞いに行ったとき「東京から!」と言い、車いすで食堂に行ってご飯を食べることもできたと、長男がびっくりしていた。そういうときに会えてよかった。
 私も昨日今日と、おばあちゃんに会いに行ってきた。車いすで食堂へ行くことはなかったが、もうすぐご飯だよ、と言うと「入れ歯」と言い、指で開いた口を指し示す。食事が来ると、「薬」と催促。食べ物をスプーンですくってあげると口を開ける。いらなくなると「もうごちそうさま」と言って手を合わせてしまうので、「もうちょっと食べてよ」と言って、結局全部食べてくれた。薬を手のひらにのせてあげると、ひとつしかないといぶかしげにしている。もっとたくさんあるはずだというのだ。朝は3つ、夜は1つらしいのだが、不服そうにしていた。カプセルを指でつまんで、自分で口に入れている。
 同じ病棟に看病で来ている八十代のおばあさんが、うちの祖母が明治三十七年生まれと聞いて「私のお母さんと同じ。よう生きとってくれたね。よう生きとってくれた・・・」と涙ながらに手をさすってくれたそうだ。
 たんがからみやすく、えんげしにくいので、ときどき吸引してもらい、食事は流動食だ。いま何か言ったかと思うと次の瞬間にはまたうつらうつらしている。丈夫な人で、どこも悪いところはないそうだが、こうやって、老衰していくのだろう。どこも悪いところがないと入院していられないらしい。そこで長期療養の分院へ移ることになりそうだ。そこも家から近く、新しくてきもちがよさそうだ。
 百二年生きてきた間には、いろいろなことがあっただろう。祖母は自分の戒名と実家の家族の位牌に自分の居場所を予め用意している。実家のお墓も守ってきた。その位牌とお墓をもって、私の祖父のところへ後添えにきたのだ。祖母には忘れられない人がいる。祖母はその人のところへいきたいのだ。祖父思いの私には釈然としないものがあったが、マジソン郡の橋、ヨン様なんだ、きっと。そう思ったら涙が出てきた。
 とんぼ返りの新幹線の中で、そんなことを考えていた。
 
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