応用言語学の専門家がみたラボの言語習得方法 |
05月03日 (木) |
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4月23日に東京ラボセンターにて、杉浦宏昌先生の講演会がありました。先生は、現在、中京女子大学で教鞭をとるかたわら「日本児童英語教育学会」(JASTEC)の役員でもあり、「応用言語学」(科学的な外国語習得方法学)を専門とされています。私がテュ-タ-になりたての頃に、言語学を研究する友人からJASTECの会員になることを勧められ、資料を取り寄せて児童英語教育の様々な研究論文を目にし、ラボもこういう場で発表されなければと思ったものでした。そのJASTECで、昨年、杉浦先生が、「ラボパーティで学ぶ子どもたちの言語習得過程とその構造のモデル化に関する研究」を発表されたことを知り、いよいよラボ・メソッドも、学会デビューを果たせたと感じています。もしかしたら、以前、テュ-タ-の方も発表されたことがあったかもしれません。応用言語学の専門家が、客観的にみた「ラボ」、特に「テーマ活動」についてのお話は、からまった糸をほぐすかのように、分かりやすく明解でした。そのお話のポイントを、先生のレジュメのタイトルに沿って、私なりにまとめたいと思います。
1.ラボとは
★ラボの出発点「ことばを身につけるということはもっと面白いはずだ」
ラボが発足した1966年、GDM(Graded Direct Method)方式でスタート。その基礎となるPattern PracticeやGradingが子どもの心理的、認識的な現実とマッチしない事例が多発しはじめる。「ことば」を身につけることは、もっと面白いはずだ、子ども自身をその気にさせること以外にはない、ことばは無意識に習得されるものだということにラボが気づき、この構想を、3年後、「家庭でのテープの聴き込み」+「パーティでの仲間とのテーマ活動」の往還的システムとして実行に移した。ラボの原点は、ここにある。
★「ラボの偉大な回り道」
「最新の英語教育理論」が人工的に子どもが食べやすいのではないかとLesson1,2・・・階段状になっているのに対して、このようにして生まれたラボの言語習得方法は、一つの大きな山をジグザグに曲がりくねりながら頂上を目指して進んでいるかのようであるという。一見、無駄もあるかのように見える。ここにラボの苦しみがある。が、その道の途中では、言い尽くせないほどの、たくさんの花が咲き、それを見つける楽しさがある。実際、ラボの子どもたちの目は、「どんなお話なの?」と輝いている。
2.テーマ活動が生きる条件
★「暗記されること」と「染み込ませること」の大接戦に勝つ
暗記は、所詮、絞り出すようにしか言えない。そうではなく、体と精神の緊張からとき放つことで、本当の「ことば」というものが生まれる。「染み込ませること」にとことん集中させることで、イメージがふくまみ、想像力もはたらき、心の中から「表現したい!」という思いが生まれる。
★「努力直線」と「成長曲線」を区別する
落語でも「こばなし100回」、絵でも「スケッチ100枚」というように、何かの技術を成し遂げるためには、ある一定のものを努力と忍耐とでやりとげなければならない。ラボでは、「物語の聴き込み」と「テーマ活動」の相互作用が成長につながるまで、時間がかかる。「努力直線」は、努力した分、成長していくまっすぐな直線。それに比べ、「成長曲線」は、努力を絶え間なく積み重ねた時、ある時突然、ぐっと上に成長する曲線。この「成長曲線」を経験した上級生が、ラボの異年齢集団の中にはいる。この成長を遂げるまでの努力と忍耐は、テュ-タ-とパーティが支えている。これは私の意見だが、家庭での支えも大きい。
★ラボの知恵「ことばの自然な習得過程」に従う
「ことば」には、①明示性(例 机はdesk)、②含意性、喚情性(情感を沸きだたせる要素)がある。ラボでは、CDを何回も何回も聴き込むうちに、ことばの意味の「核」ができあがり、仲間と活動をしているうちに、そのまわりに様々な質感が出てくる。「つるつるした」ことばから「ざらざらした」「にゅるにゅるした」ことばへ。種のまわりに果肉がいっぱいついて、噛むと味が出てくるような「ことば」をあつかっている。体験にもとづかなければ習得できない「ことば」である。
★「なる」:「心持ち」が重なる
ことばが本当に伝わる時というのは、相手に自分と同様の心持ちが生ずること。「『なる』と子どもたちは凄い力を出すわよ」(関西Iテュ-タ-)。子どもたちは「演じている」のではなく、「なっている」。「ことば」=「からだ」である(「ことばがひらかれるとき」竹内敏晴)。「なる」と発表している子どもたちの「心持ち」がびんびん伝わってくる。
★ことばは、蓄積されている
イメージ(絵)の輪郭が出来上がらなければ、ことばで描けない。ことばで描きながら絵をさらに塗り上げる。一般には、一つのことばを習得するためには、2000時間も必要だという。体全体にずっとしみこんで、最後にわき出てくる。ときほぐされて、「ことば」が自然に出る。週1回の小学校での英語授業では、ほとんど何の影響もない(薄い)。テーマ活動であれば、3ヶ月で30分のものを100回聴いた場合、年間で学校の約5倍もの量が聴けていることになる。
3.今後のラボの課題
①小学校高学年になってくると、知的論理性(約束事の世界)を求めてくるようになる。「読み・書きの世界」の展開をどのようにしていくか。→知的論理性に応えるよう、やってみればいい。
②「なぜ」という好奇心に応えるラボ。文字に関心を持ち始め、自然に写し始める。「音」が入っていることを生かして、知的論理的世界へ導いてあげればいい。
4.提案
子どもたちの変化、成長を示す事例を記録し集める。テーマ活動を深めて、テュ-タ-が、どのように子どもたちの変化を促しているか、その役割を明らかにするためにも。
5.まとめ
応用言語学の分野で、横軸を「抽象性(数値、統計)-具体性(事実)」、縦軸を「ストンと落ちる(腹の底から、うんOKと思える)-落ちない」という一つの図表を描くと、従来の英語教授法は、あまりにも抽象的で落ちない部分に行き過ぎていた。例えばフォニックスや発音の舌の動きを現した顔の断面図など。ラボの言語習得は、その正反対の部分に位置している。このような「具体性があり且つストンと落ちる」ような言語習得方法でなければ、実際には役に立たない、この部分に位置する教授法をもっと追求すべきだ。
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先生は、黒姫キャンプにも参加し、子どもたちが違和感をもたないようにと、一メンバーとして、食事の運搬、掃除など、全ていっしょに取り組まれたそうです。ラボの活動を子どもの目線からみて、またたくさんのインタビュー、パーティ訪問を経て、以上のような分析をされそうです。
以上、私なりの解釈も多少入っているかと思いますが、なるべく先生のお話になったことばに忠実にまとめてみました。
余談となりましたが、ラボのHPを立ち上げて、丁度4年がたちました。こちらの「保護者の方々へ よりラボをご理解いただくために」も92件目。HPができる前は、パーティだよりに綴ってきた内容ですが、HPですと、すぐに過去に書いたものもタイトルから見ることができ、やはり便利。文章をまとめることに毎回かなり時間がかかりますが、これからも何度も推敲を重ねつつ、これは伝えたい!という内容を書いていきたいと思っています。
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Re:応用言語学の専門家がみたラボの言語習得方法(05月03日)
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古ギャルさん (2007年05月04日 00時19分)
しっかり先生のことばを聞き取り、ご自分の考えを確立されながらま
とめられた内容だと感心させられました。よくわかりました。
神奈川でも6月に先生の講演があります。拝聴する上でとても参考になり
ます。
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Re:応用言語学の専門家がみたラボの言語習得方法(05月03日)
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みかん(でこぽん)さん (2007年05月04日 22時01分)
杉浦先生のお話を、分かりやすくまとめて報告くださってありがとうご
ざいます。じっくり読みたいので、プリントアウトしてもよろしいでし
ょうか?
以前、私が中学教師をしていた頃、「新英語教育」という雑誌でラボラ
イブラリー「ありとキリギリス」を使って授業をした先生の実践報告を
読んだ記憶があります。この先生はラボママだったのでしょうか?ライ
ブラリーの質の高さにふれてありました。
「ラボの偉大な回り道」というくだり、感じ入りました。そこまで、や
るか???というくらい、思いっきり回り道をしているようで、実は、
一番の近道なのかもしれません。元気が出てきました。ありがとうござ
いました。
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