香月泰男という画家 |
02月24日 (火) |
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ほんとうは,こういう絵を皆さんに薦めていいものかどうか,
わたしにはよくわかりません。
およそラボをやる皆さんのタシになるものではありませんし,
東山魁夷の絵のように,見て心地よいものでもありませんので。
ただ,軽率なことに,イラストを描いているhit氏をけしかける意味で
ちょっとばかし調子に乗り過ぎて書き込みをしてしまったものですから,
書くからにはもう少しはきちんと紹介しないとまずいかな,
とそんなふうに思いまして…。
いま東京ステーションギャラリーで開催中(3月28日まで/月曜休館)の
香月泰男(かづき・やすお)展。歿後30年を記念する回顧展で,
「〈私の〉シベリア,〈私の〉地球」というサブタイトルがついている。
山口県の日本海に面する小さな町,三隅町の出身。
東京美術学校(現・東京藝術大学)卒業,
梅原龍三郎に師事して油彩画を描きながら,美術教師として勤めていたとき
召集の命令を受け,満州へ赴きハイラルで軍隊生活を送る。
2年弱にして敗戦。敗戦にともない虜囚として
シベリアの収容所(ラーゲリ)に送られる。3か所のラーゲリへ次つぎと。
零下30~35℃,ものみな凍結してしまう極寒の世界で
2年にわたる飢餓と強制労働の日々を送る。
「兵にとって戦争とは,郷愁との戦いでもある」として帰国の日を夢み,
1947年,ようやくあこがれの舞鶴の土に立つ。
生家に帰って再び絵に取り組むが,
頭に結ばれるイメージは,あのシベリアの日々のことばかり。
月も太陽も,少しも明るくない。そして,どんなときも
あの恐ろしい極寒の地で骨と皮になって果てていった幾万もの
戦友たちの叫喚が耳から離れない。
どこにいても,シベリアの凍土に眠る戦友たちの亡霊が出たり消えたり…。
香月の画業はその戦友たちの鎮魂のためにささげられた27年だったといえる。
自分で焼いた炭を刃物で削り,油をまぜて顔料にして描く独特の世界。
それは,描く道具といって何もない索漠たる収容所生活で,
シラカバの皮を燃やしてつくった炭だけが唯一の絵の具だった,
その記憶から生まれた手法という。
だから,その世界は色彩に乏しく,荒涼としてうそ寒い。
ぞくぞくするほど,そのこころの闇は深い。
そうした画面が,古い駅舎のむきだしになったレンガ,
ところによっては崩れてきそうなレンガと漆喰の壁面と一体をなして
ふしぎな力をもって迫る。
作品はこのシベリア・シリーズばかりではないが,
どうしてもこの印象が圧倒的だ。
家族や友人に宛てた軍事郵便ハガキに描かれたスケッチにも味がある。
萩焼の絵づけもユニークで奥深い。
いずれにせよ,胸つぶれる暗い情念をずうっと,
ずうーっと抱えつづけて生きた一人の画家の生涯は,
なぜ人は表現しないでいられないのか,――それを考えさせてくれる。
(2004.2.24)
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Re:香月泰男という画家(02月24日)度々お邪魔します。
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ふーちゃんさん (2004年02月24日 22時54分)
香月泰男の名前にひかれて、また日記を拝読いたしました。
独特の画風ですが、私は好きな画家です。
花一輪も炭の黒、金がはいったり、白と黒のコントラストに引き込まれます。
義父が美術好きで、香月も好きな画家であったため、
絵を眺めながら色々な話を聴いたのが、香月を知った最初でした。
「幼鳩」1965年頃晩年の作品は、バックは黄色一色、
下中央に白い鳩、丸い目は黒く、くちばしがうす桃色、巣に座っています。
白い鳩は、今にもふっと息をしそうな、いのちをはぐくむ優しい絵です。
珍しい作品のようですが、流れているのは静寂です。晩年の作だからかなぁ?
だからって何ってことないのですが…。
香月のその絵は、バックの黄色が白い鳩をほっと包んでいるようなのです。
どんな気持ちで描いたのだろう?って、
がのさんの日記から、ちょっとそんなことをまた想えました。
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Re:香月泰男という画家(02月24日)
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スミティさん (2004年02月25日 14時02分)
三隅町の香月泰男美術館のHPです。
金子みすずがお隣で生まれていますから不思議な気がします。
このところ山口県の日本海側は、香月泰男美術館、金子みすず記念館、
山口県立浮世絵美術館(萩 ここはいい浮世絵がたくさんあります)
と、美術館がたくさんできました。
そのおかげで県立山口美術館(山口市)の方にいいのが来なくなって
さびしいです。日本海側はやはり遠い・・・
津和野には安野光雅美術館ができています。
http://ww5.tiki.ne.jp/~misumici/kazuki/
極限の中で見た美、死んでいった戦友たちへの思い,生き残った自分に
目に映るもの。見終わると、どーんと疲れますが・・
早春のあのあたりのドライブはきれいですよ。
菜の花、連翹、桜、水仙。奥さまといかがですか??
錦帯橋も架け替えが進んでいます。
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Re:香月泰男という画家(02月24日)
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hitさん (2004年02月29日 17時22分)
こんにちは。
香月泰男展行ってきましたよ。
少し前に吉村昭のタイトル忘れましたが、シベリア抑留の本読んでいた
ので、興味わいたんです。
煉瓦壁に煉瓦を積む絵が、煉瓦が原寸くらいに描いてあってびっくりし
ました。
抑留生活を思って描いたほとんどモノクロの絵には、感激しました。
が、そうじゃない絵も、デザイン化されていて好きです。
色がシンプルででも、こんな感じだなあ。って感じ方に共感しました。
3度目も、実はよく調べもせずに行きました。
やっと何とか見れて良かったです。
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