✦ひとは、その生を生き、なにを得、なにを喪うのか… |
05月02日 (木) |
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ひとは、その生を生き、なにを得、なにを喪うのか…
…哲学者ならぬわたしごときが、鹿爪らしくそれをここで書くのは控えるとして、そんなことを思いながら、
数百におよぶ若い表現者たちの夢と遊んだ一日。第87回「国展」、六本木の国立新美術館にて。
とにかく、この種の公募展を観るには相当な覚悟が要る。
見尽くせぬほどの同床異夢の宇宙に無防備のまま放り出されるのだから。
テーマも見えなければ傾向というようなものも特にあるわけではない。
こちらがどう構えて鑑賞するか、それだけである。
じつは、この「国展」に足を運んだのは初めて。奈良にお住まいのAテューターのご案内によるもので、
そのパーティの元会員だった山本大也(やまもと・だいや)さんが絵画の道でがんばっており、
新進気鋭の作家としての評価を高め、このたびみごとに「国展」に入選、展示されることになったとの報。
広島大学芸術学部(油絵専攻)を卒業、以後、広島市を中心に活動してきた26歳。
入選作は「四角いラクダ」と題する作品。白っぽい壁面にひょいと掛けられた(ラクダ皮の)バッグ。
ただそれだけ。特に見栄えするものでもない。高価なものにも見えない。
そして、むしろ展示スペースの片隅に置かれた小さな絵。
みなさん、どうお感じになりますか? でも、
周囲の圧倒されるような色彩の繚乱のなかで、そのシンプルさが際立ち、やけに存在感があるんですよね。
わたしはこんなのが好きですよ。欲や飾りはないが、しっかり捉えている。
それに、絵画部企画展示コーナーにもう一点、「食物マンション」と題する作。
こちらは、全国7ブロックから推薦された40歳以下の有望な若手作家たちの作品を集めた一角。
中国・四国ブロックから5名が推薦されていて、そのうちの一人が山本大也さん。
鋲(くぎ)の一本一本にまでリアリティがあります。
いけないと知りつつも、つい指先で触ってしまいました。
なぜなのか、空っぽの木箱の棚、まっ黒な空間が多いことに、不安なものを感じたり…。
満たされているようで、じつはちっとも満たされていない精神風景。
こちら、恥ずかしながら、それぞれの作品を的確に評価できるほどの素養は持ち合わせないので
申し訳ないですが、山本さんには、その夢をずうっと見失うことなく追いつづけてくれることを願うのみです。
〔2013.05.02〕≪関連記事、facebook≫
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Re:✦ひとは、その生を生き、なにを得、なにを喪うのか…(05月02日)
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candyさん (2013年05月04日 15時41分)
ありがとうございます。
彼の絵は、きっとがのさんに気に入っていただけると思って、ご案内さ
せていただきましたが、どんな作品なのかわからなかったので、写真を
アップしていただいてとてもうれしいです。
食物マンションと、2点も見ていただけたのですね。入選作は実物を見
たことがないのですが、彼らしい作品で素晴らしいですね。
だいや君(いまだにこう呼んでいます)に、がのさんのページを紹介し
ておきます。 本当にありがとうございました。
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Re:Re:✦ひとは、その生を生き、なにを得、なにを喪うのか…(05月02日)
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がのさん (2013年05月04日 23時16分)
candyさん
このところ、ヒマにまかせていろいろな美術館めぐりを
楽しんでいますが、このたび、このような機会を
いただきまして、感謝しています。
きらきらする若い才能、そのみずみずしい感性。
うらやましいですね。
阿部さんもその伸び代を大きな楽しみにしておいでのことでしょう。
後日、山本さんの作品がどんな雰囲気のなかに展示されていたかを示す
画像をPCにお送りいたしましょう。
彼の作品の特質がよくわかると思いますので。
周囲の作品は、若い激情をたぎらせたようなものがほとんどで、襲いか
かられるような強い印象。わたしみたいなものには、ちょっとキツイ。
この種の、手前よがりな、表現過多はこちらの自由を奪ってしまいます
ね。
そうした作品群のなかにあって、山本さんの作品ばかりは、
ひとりクールで、寡黙です。静かで、精神性の高さを感じさせ、
こちらに何やらすがすがしい連想をうながしてくれます。
たとえば「四角いラクダ」。
ヨコ一本のまっすぐなハンガーに無造作に吊り下げられたバッグ。
どうやら久しく使われたことのない、置き忘れられた
ホコリをかぶってさえいるしろもの。背景にあるのは広大な砂漠、
生命の絶えたネアン(Nothing、虚妄)の世界。
♪月の砂漠を はるばると…♬
そのラクダは、栄養失調状態にあり、右へ左へよろよろと、
歩行は乱れがち。痩せてコブのとんがりがやけに目立つ。
決して行き着くことのない目的地に向かっての黙々とした歩み。
生産性、経済性とはおよそ無縁な、不毛な、しかし清廉な歩み。
制作者の意図とはぜんぜん違うかも知れませんが、
勝手にそんな物語の想念を誘い出してくれる作品。
こちら観るもののなかにスッと入ってきますよね。
「食物マンション」のほうもコンセプトは同じ。
専門的に見て、これが好い作品か、それともつまらない作品か、それは
わたしにはわかりませんが、楽しませてもらえたことは確か。山本大也
さんには、その夢を信じてますます精進してくださるよう、期待してい
ます。
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