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★求婚の風光。かぐや姫の場合、玉鬘の場合、ペネロペイアの場合。〔その1〕 |
05月10日 (木) |
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◆『竹取物語』と『源氏物語』にみる求婚の条件
突然ですが、あなたは何人めの求婚者と結婚なさいましたか?
えっ、「18人目」、…すっご~い! 理想が高かったんですね。
「ラッキー・セブン」、なるほど。ゲンをかついで幸せをゲットなさったというわけ。
ええ~っ!?、最初の人とあわてていっしょになってしまい、損した、って。
損したか、得したか…、それについてはどう言えばいいんでしょうかねぇ。
それに、あなたの結婚願望はいつのころからでしたか?
どんな心的動因からだったですか?
ま、ま、そんなにプライバシーをずけずけと覗き込んではいけませんね、失礼しました。
◆『なよたけのかぐや姫』
がぐや姫については、みなさんにはあまり説明を必要としないはずですが、一応、整理してみますと、求婚者には、5人の身分の高い人物と、もうひとり、帝がいました。しかし、かぐや姫はもともと月の世界の人で、何やら罪を犯して月から地上に追放されている身。罪の償いが済めばもう地上に留まることはできません。美しいかぐ姫を求めて5人の求婚者が竹取の翁の家に入りびたります。それぞれ有力者ですから、親役の竹取の翁、讃岐の造(みやつこ)としては無碍には断われません。その饗応のためには多くの散財と失礼のない配慮を要したことでしょう。そこで、直接に求婚を拒否することなく体裁よく彼らを撃退するため、かぐや姫からそれぞれに難題が課されます。石作皇子には仏の石の鉢、庫持皇子には蓬莱の珠の枝、右大臣阿部御主人には火ねずみの皮衣、大納言大伴御行には龍の頸の珠、中納言石上麻呂足には燕のもてる子安貝、というわけ。求婚者はその難題物の入手のために艱難辛苦の奔走をし命がけの挑戦をします。しかし、ひどいもんです、それは相手を欺く手段であり、ぜったいに入手不能のもの、もともとそんなものなどはありません。かぐや姫の提出した課題が偽りなら、婚約者たちの挑戦もいずれもうそっぱちで、口先だけで偽りの話をつくりあげて姫を欺こうとする芝居でした。偽りはバレて、求婚者は赤っ恥をかいたり、命を落としたりして、挑戦に失敗します。被害の度は話の展開ごとに増大していきます。ま、婚約者たちのやっていることがまっ赤なデタラメなら、かぐや姫の投げかけた難題はその上を行く偽りもの、姫はタチの悪いしたたかものです。偽りと知りつつも女の美しさに惑わされ振り回される男たちこそオタンチンパレオロガス、悲しい男の業なのでしょうけれど、たまったもんじゃないね、これ。。
『竹取物語』の劇的展開の心柱には、男たちの難題物獲得をめぐるウソっぱちの挑戦のほか、月の使者の出現と帝の兵との対決があります。対決とは言え、帝の兵の力は月からの使者の力の前ではまったく意味をなさず、戦いにもいたりませんけれど。
で、なぜ物語の最後に帝が登場し姫に求婚するのか。それこそが『源氏物語』の作者がいう「物語のい出来はじめの親」ということなのでしょう、わたしにはうまく言えませんが、物語としてのバランスであり、コントラストなのではないでしょうか。だって、前半のすさまじい謀りごとで終わってしまったら、これはひどいじゃないですか。美しい姫が悪鬼か地獄からの使いか、ということになりませんか。天の羽衣をまとうと同時に、ものを思うこころを喪い、だれとも気持ちの通じない「モノ」となり、月の世界に属するわけのわからぬ存在として素っ気なくスーッと去っていってしまう。育ててくれた翁たちへの恩義はどうなのだ。多くの人たちから受けた愛情に報いるにそんな冷淡なことでいいのか。ところが、帝とのエピソードが入ることにより、姫は地上での人たちとのお別れを悲しみつつ月の世界へ去っていくという、余情ゆたかな悲劇のうちにエピローグを迎え、読むものをホッとさせてくれます。
でも、わたしは、ほんとうをいうと、そこのところがよくわかりません。かぐや姫との関係で、帝はかなり暴力的です。帝からの使者に対して求婚をしりぞける意思を伝えるとき、かぐや姫は「帝に背くのだから、どうぞわたしを殺してください」とまでいいます。そもそもが、狩りを口実にして翁の家におもむき、みずからかぐや姫に迫っています。その袖をつかんで宮仕えを強制します。こりゃあ、親方ヒノマルで、権力にものをいわせた暴力の行使ですよね。それでも、姫のはげしい抵抗を受けて、残念無念、帝は求婚を断念します。すっぱりと求婚を断念した帝は、その後、姫と文をとりかわしこころをかよわせ合います。富士山の噴煙、かぐや姫が残していった不死の薬を焼く煙は、遠い遠い月に消えていったかぐや姫への、帝の憧れの表現でもあったでしょうか。わたしたち読むものとしては、ロマンに満ちた輝きある憧れの存在は遠くにそのままあって、欲まみれ権勢まみれのつまらぬヤツと結婚し所帯をもつようなことがなくて、ああよかった、とスッとさせてもらえるというわけ。
◆『源氏物語』
たくさんの個性ゆたかな、魅力あふれる女性のオン・パレードを見せてくれる『源氏物語』。求婚者の多さという点から見ると、玉鬘(たまかつら)ということになるでしょうか。玉鬘は光源氏がこよなく愛した女性の一人の、夕顔の遺児です。ほんとうは光源氏の子どもではなく、恋において政治においてライバルの関係にある頭中将(とうのちゅうじょう)と夕顔とのあいだに生まれた子。母親に似てたいそうな美貌だったようです。
母親の夕顔ですが、物語全体のなかではそれほど存在感があるわけではありませんね。男のいいなりになってしまう自然体の女というか、どうも頼りげない存在ですが、男の欲望をそそらずにはいない魅力的な容姿に加え、性愛じょうずとされ、源氏も頭中将もゾッコンでした。そうなると、周囲の女たちの嫉妬には恐ろしいものがあり、源氏の愛人とされながらあまり相手にしてもらっていない六条御息所(ろくじょうみやすんどころ)の怨霊に呪い殺されてしまいます。夕顔の19歳のときでした。とびきりの美貌で、優柔不断。まあ、好色男たちにはいちばんご都合よろしい女というわけで、身から出たのは、高雅な香りのたちのぼりではなく、サビというわけで、こんな命の閉じ方も仕方ないでしょうかね。さらにイイタマなことには、死にのぞんで娘の玉鬘の養育を源氏に託すというちゃっかりぶり。
さて、玉鬘。なんとも可愛らしいこの子、たいそうな物語好きなんですね。紫式部がこの可愛い幼女に対する源氏のことばを借りて物語観を述べる部分です。『竹取物語』がなぜ「ものがたり」の原型なのか、そこはわたしたちにもおおいに勉強になりますね。その玉鬘、日ごとに成長して美しさを加えていきます。そうなると、さあさあ、たいへん、どっと求婚者が現われ、彼女の思いは千々に乱れます。なかには、乱暴者として聞こえた大夫監(たゆうのげん)という肥後の豪族がいます。ヘタに断ろうものなら何をされるかわかりません。それだけではありません。のちに女三の宮との密通でたいへんな事態を引き起こす柏木も。この柏木、じつは玉鬘が自分の姉であることも知らないオタンチン。源氏の弟の蛍兵部卿宮も、有力な政治家ながら無骨者の鬚黒大将も。さらにやっかいなことには、源氏自身も。自分が養父であることも忘れて玉鬘に執拗に言い寄り、親子関係が危機に瀕します。
しかし、騒がしい男たちをよそに、玉鬘はなかなか慎重な女です。打算の人です。あれこれと己れの行く末にじっくりと思いをめぐらせます。なみいる貴公子たちから次つぎに届く恋文。彼女がそれに返信するのは、養父の弟の蛍兵部卿宮ただ一人。立場上からして欠かせぬ礼儀だったのでしょう。さあ、それで決まり! と思いきや、玉鬘がくだした最後の結論は、……なんとまあ、もっとも気が進まなかったはずの相手、鬚黒大将というわけ。う~ん、そんなもんでしょうかねぇ、賢い女の打算とは。
長くなってしまいました。ギリシア神話、ギリシア英雄伝説のなかの求婚ばなしは、またそのうちにご紹介することにいたします。英雄オデュッセウスの妻、孤閨を20年間も守るペネロペイア。その美貌の王妃に言い寄る求婚者の数は129人といいますから、これはもう、とんでもありませんね。
★転記スミ 『なよたけのかぐや姫』⇒ページ一覧「物語寸景(6)」 「源氏物語」⇒ページ一覧「つれづれ塾(その5)古典」
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